「ほのぼの話のようで、魚を締める場面もきっちり描くなど、実はいろいろ”攻めた”一作」さかなのこ yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
ほのぼの話のようで、魚を締める場面もきっちり描くなど、実はいろいろ”攻めた”一作
さかなクンの自伝的な物語を、性別を変えてのんが演じるほのぼのドラマかと思ったら、さかなクン本人が登場するなど(しかし役柄…)、いろいろなところに観客側の世界線、つまりメタ的視点をふんだんに織り込んだ作品でした。
物語そのものは、ミー坊(さかなクン)の成長物語として素直に鑑賞できる作りになってはいるものの、作品の構造を未見の人に説明しようとしてもちょっと言葉が詰まるほど、虚実様々な要素が組み合わさっています。仲の良い友人と鑑賞して、物語と現実のピース合わせをしても楽しいかも。
もちろん本作において暴力描写など皆無に近いわけですが(不良集団は登場するけど、ミー坊の言動に真面目かつ真っ当な理屈で反応するという、”新機軸” の不良像でした)、釣った魚を締める場面もはっきりと見せていることには驚かされました。ハリウッド映画などでは動物保護の観点から、絶対に描かないような場面ですね。恐らくさかなクンや制作陣の、魚たちを単に愛玩的に描くのではなく、食べる対象としての側面も見せる、という真摯な姿勢の表れなのではないかと思います。これは表現規制の圧力が強い昨今の映画制作において、実はなかなか攻めた態度ではないかと思いました。ここに強く好印象。
日常生活を描いた場面は、それほど照明効果を意識させない自然な見せ方に徹していて、時折挿入される短いけど印象的な水中場面との美しい対比となっています。登場人物は誰もが基本的に”いい人”として描かれているんだけど、一番ミー坊に理解があって、でも人物像としてちょっと平面的に思えていたお母さんに、ちょっとひねりを入れてくるという味付けの仕方が良かったです。
魚を締める場面は一切観たくない!とか悪党同士の派手な銃撃シーンが観たい!という人以外は誰でも、楽しめる作品です。後者の人には本作の代わりに『ヘルドッグス』がおすすめ。