「今までの池井戸作品とは違った「ヒューマンドラマ」。」シャイロックの子供たち ガバチョさんの映画レビュー(感想・評価)
今までの池井戸作品とは違った「ヒューマンドラマ」。
痛快な展開で、見終わった満足感は高い。しかし「シャイロックの子供たち」というのはどういう意味なのかすぐには呑み込めなかった。シャイロックというのは「ヴェニスの商人」に出てくる、強欲な金貸しのことだ。一方銀行は、資金を事業者に貸し付けて経済を支える重要な役割を担っている。単なる金貸しとは根本的に違うはずだ。しかし、銀行マンでありながらシャイロックのような私利私欲に走る金貸しになってしまう者も少なからずいる。この物語は、そんな悲しい銀行マンを描いているようだ。
銀行マンとシャイロックは紙一重である。誘惑に負けたり、良心に一瞬目をつぶればすぐに転落する。「金は返せばいいというわけではない」という黒田のセリフは、銀行マンの高い倫理意識を表したものだろう。そしてそれを守れなかった自分の弱さへの自戒でもある。
阿部サダヲが(主人公の)西木を演じることで、この作品の性格がほぼ決まったと言える。上からは期待されない、出世コースから外れた銀行マンの意外な大活躍である。阿部サダヲにぴったりの役どころと言える。銀行と詐欺事件というとてもカタイ話なのにヒューマンドラマっぽくなっているのは、阿部サダヲのキャラクターが効いている。西木と一緒に不正を追及する北川と田端も、池井戸作品に共通している「真剣勝負」のような緊迫感というよりは、微笑ましい感じになっている。
今までの池井戸作品からすると物足りなさを感じる部分もあるかもしれないが、これはまた違う味わいのとても楽しい作品になったと思う。
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