「【2/28追記】求められる知識量が半端ない…(これから見に行く方に参考載せてます)」シャイロックの子供たち yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)
【2/28追記】求められる知識量が半端ない…(これから見に行く方に参考載せてます)
今年50本目(合計702本目/今月(2023年2月度)16本目)。
計画有休で今日はお休みでしたので4本みました。
さて、こちらの作品です。
一言でいうと、「1月の「イチケイのカラス」がもっと難しくなったバージョン」です。
私はテレビドラマ版は見ていないのですが、元の原作でもここまで難しい話はしていないのではないか…と思えます。
序盤はとある架空の銀行をテーマに、不動産を担保にして融資をするだの、お金がなくなっただの、監査が何だのといった、どちらかというと「銀行業務で起きるトラブル、犯罪」を扱った内容で、民法的な見方も刑法的な見方もどちらも一応できます。特に民法的な見方をする場合、総則、物件(担保物権)、債権、特殊債権(不当利得、不法行為)と、範囲が無茶苦茶に広いのが厳しいです。
しかし、この映画もそうですが…、リアル銀行が実際そうなのですが、不動産を担保にして融資をするということはあります。こういった特殊なことを知っているかどうか、さらに、この映画、とにかく求められる量がすごく、リアル行政書士資格持ちのレベルでは8割か…というところです。きわめてマニアックな話に後半飛んでしますからです。
しかも、状況説明のための字幕は出てくる割に、「抵当権抹消」だのといったマニアックな語は出る割に何の説明もないので、何が何だかわからずつまずく方がいるかなとかなり思えます。「イチケイのカラス」は究極論は日曜ドラマの刑事ものの延長戦上の戦いですが、こちらの映画は不動産登記法という特殊な法律を知っていないと???な展開に飛ぶからです(その前提として民法を知っていないと当然詰まる)。
採点は以下の通りで、4.7で4.5まで切り捨てています。
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(減点0.3/明らかに配慮不足が過ぎる)
・ 正直、誰得映画なのか…というくらいに、後半法律ワードが飛びまくり、そこで力尽きる人が続出するのではなかろうか…というところです。しかも「説明らしき説明」は出てくる割に(「抵当権抹消」など)、それが何なのかの説明が何もないまま(映画のセリフとしても出ない)進むという映画で、かなり難しい印象です。
リアル知識で挑むなら司法書士以上の知識が必要で、そんな人誰が見に来るんでしょうか…。
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以下、行政書士資格レベルでの説明を入れました。参考までにどうぞ。
ネタバレは入っていないです。
【●大前提】 上記にも書いたように、映画でもリアルでも、銀行では、不動産を担保にしてお金を貸すことがあります。このとき、そのお金が回収できなくなると困るので、その不動産(土地、建物)に抵当権を付けることがあります。「返せなくなったり、返済が遅れたり、破産したりして回収できなくなったら、現金化してこちらのものにしますよ」というものです。
【●やや前提】 ここがきついのですが、この映画は、結局、日本民法177条を知っていないと確実に詰まります。
(177条(一部省略))
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不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
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要は、「不動産の売り買いや贈与、抵当権設定どは自由にやってもいいし効果はあるけど、その内容を登記(誰が所有者なのか、あるいは、抵当権がついているか、等の「記録」)しないと、第三者(ここでは、当事者以外の人で、その登記の有り無しを主張することに意味がある関係者、程度の意味。厳密な定義はありますが、ここでは割愛)にはその有り無しを主張はできません」という条文です。
この「誰が所有者なのか、いつ抵当権をつけたのか」といったことの記録を「登記」といいます。そしてこれを仕事にするのが「司法書士」(←行政書士ではない)という職種の方です(映画内でも登場します)。そしてその「登記」は「法務局」というところ(全都道府県にあります)で記録を受け付けています。
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<< 2/28追記>>
・ そもそも、「当事者では有効でも、登記をしないと第三者には登記の有り無しを主張できない」(177条)の趣旨は何でしょうか?
民法は、「「常識的な範囲の」取引社会」を想定しています。ですから、Aさんが土地を持っていてBさんに1000万円で売却したというとき、Cさんが「3000万円だすからくれないか?」ということもあります。このような「常識的な範囲のやり取り」は想定の範囲なのです。このときには「先に登記をしたほうが勝ち」になります(負けたほうは「二重売買」を問題にして損害賠償等で争う形になります)。
※ ただし、このCが「Bに積年の恨みを持っているから、銀行から1億円借りてきてでも購入してBを困らせてやろう」というような「常識的な範囲の取引社会」を逸脱したような「単に人を困らせる目的」のような場合(このような変な人を「背信的悪意者」といいます)は、保護に値しませんから、登記がなくても大丈夫です。
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【参考】 日本の民法は177条でこのように決めているのみで、「登記をしないと、当事者間では有効でも、第三者が割り入ってくると勝てない(から、登記しましょう)」というだけです。そして、その詳しい「登記の仕方」については、上記の引用にもあるように「不動産登記法」という法律に規定があります。しかしこの法律、司法書士試験でしか出ないのですよね…。したがって、字幕に出る「所有権移転」「抵当権抹消」などもここに根拠が求められますが、まずそもそも論で「所有権」「抵当権」という語は民法のレベルで、その話を理解してやっとこの話ができるところ、その説明も何もない…というところです。で、その知識もかなり細かい話です(抵当権の論点だけでものすごい量になってしまいます)。
後半のこうした部分がかなり厳しく、宅建レベルの民法の知識(宅建はその性質上、177条や不動産登記法の初歩は必ず問われる)以上の知識がないと、後半は完全に???ワールドに連れ去られてしまいます。
何も「ここまで難しくする必要なかったんじゃないのか…」というところに大半きます(この映画、司法書士会などが推薦しているわけでもないらしく、誰得状態になっているのが状況だったりします)。
【参考】 司法書士の方がいるシーンで、不動産(ビル)を渡すほう、もらうほう、両方が出席しているのはなぜ?
→ 所有権移転というように重要なものは、「有利になるほう」「不利になるほう」両方に参加してもらって「確かに間違いありません」という証明をもらわないといけないのです(これを「共同申請主義」といいます)。したがって、この映画で出てくる司法書士の方は、この2人の方の双方代理(民法108)を行っているのです(利害関係がなく、当事者がそれで構わないといった場合は問題になりません。実際、そうしないと申請が通りません)。
※ ここで書いたようなことは、初歩の論点でも行政書士試験でも問われますので(行政書士は登記を代行することはできませんが(←司法書士の独占業務)、お客様から質問がきたとき、不動産登記に関することを知らないと、適切な「接続先」(ここでは、知り合いの司法書士に一本電話して「あとはお願い」ということ)に接続できないというリアル事情があるので(「●●行政書士事務所」等に来られる方が全員、司法書士法等の士業法を熟知しているわけではない)、一見「畑違い」の行政書士の資格持ちでも、ここまでは書けるのです。