「姉弟の選ぶ道」シスター 夏のわかれ道 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
姉弟の選ぶ道
同じアジアでも日本では作れない。
疎遠だった両親の突然の事故死により会った事もなかった弟の面倒を見る事になったヒロイン。
それだけ聞くと日本でもハートフル感動作として作れそうだが、本作の核と成すのが、“一人っ子政策”。
中国で1979年から2014年まで実施された政策。爆発的な人口増加を抑える為、家庭に子供は一人まで。
近年も『在りし日の歌』で題材になり、中国が今も抱える問題や暗部が浮き彫りになる…。
政策に反して、子供を二人産んでしまった。
この場合優先優遇されるのは、男の子供。跡継ぎとして。
本作のヒロインの場合、もっと深刻だ。
両親が欲していたのは、男の子。
自分は障害児と偽られ、両親はもう一人産む。
望まれなかった女の子と望まれた男の子。
姉アン・ランは弟アン・ズーハンに愛情など微塵も感じていなかった。
…当初は。
親族が集まって、色々揉める。これは万国共通。
その際も傲慢振るうのは、男の親族。
女なら家族の世話をしろ。弟の面倒を見ろ。
姉アン・ランはすでに社会人として一人立ちしているが、それでもまだまだ若い。なのに押し付ける横暴…。
アン・ランは看護師として働き、将来は医者を目指している。しっかりと自分の道を決めている。
でもそれも親族…男どもに言わせると、ワガママ言ってるんじゃない。他にやる事あるだろ。実の姉/女なんだから。
ワガママ言っているのはどっちだ…?
アン・ランが担当している女性患者の家庭でも。その患者は妊娠しているが、とても出産に耐えられる身体ではない。それでも夫や自身も出産を望む。何故なら、先に授かった子供は二人共女の子だから…。
中国(のみならず韓国でも)が今尚抱える男尊女卑や家父長制。
養子に出すまでの間、仕方なく面倒見る事に。
甘やかされて育てられたのか、とにかくワガママな弟。まだ幼い事もあって、両親の死すら理解していない。
苛立ち募る姉。個人的な複雑な感情も含めて。
決して温かな関係と感動の姉弟愛などではない。
が、それでもたった二人の姉弟。
次第に…。
その様をきめ細やかに描いていくイン・ルオシン監督の手腕。シビアであり、今の中国に訴えるものあり、そして見る者の心の琴線に触れる。
跳ねっ返りが強く、男の親族や事故を起こした相手にも怯まず物を言う。
面倒な弟。が、次第に情が湧き始める。思う余り、厳しく、優しく…。
望まれなかった子としての苦悩。亡き両親に問う。あるシーンでの嗚咽…。
チャン・ツィフォンの魅力と、その確かな演技力に引き込まれる。
ワガママぶりにイラッ。でもいつしか、それすら愛おしくなってくる。
オーディションで選ばれたダレン・キムくんのナチュラルな名演。
ヒロインの生き方や姉弟の姿に、中国では社会現象になるほどの話題になったとか。
ラストも意見分かれそう。
ズバリ言うと、養子に出すも、思い直して弟の手を取り、二人で生きていく道を選ぶ。
姉一人で弟を育てていくなんて、楽な事じゃない。自分の夢を諦める事になるかもしれない。
これは意外な気がした。問題提起を掲げる本作なら、養子に出して別れ、見る側に委ね訴えるからと思ったから。
本作が一貫してリアルだったら、そうすべきだったろう。
が、映画は時に理想的であっても、そうあって欲しい。
個人の幸せも、共に生きていく幸せも。
誰もが希望あるこれからと温かな感動で、この姉弟を見守りたい。