劇場公開日 2022年11月25日

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「一人っ子政策の悲劇に光を当てた良作」シスター 夏のわかれ道 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0一人っ子政策の悲劇に光を当てた良作

2022年12月18日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

一人っ子政策の歪みを鋭く描いた中国映画でした。中国映画は、昨年「少年の君」を観て以来でしたが、直接的な政府批判が検閲に引っかかってしまう状況下にあって、実に上手く社会問題を捉え、そして表現しているところが素晴らしいと感じました。

本作のテーマとなる一人っ子政策は、1979年から2014年まで実施されていた中国の人口抑制政策ですが、原則一人しか子供を作ってはいけないことから、男子に家督を継がせたい親にとって、女子が生まれた際の失望は相当なものだったとか。そのため、女の子が生まれても出生登録しないこともあったということも聞くなど、家族の中でも大きな問題が生まれたと言います。また社会全体でみても、男女比率が歪になってしまうといった問題も発生してしまったり、日本とは発生原因は異なるものの、少子高齢化が進んでしまうという結果をもたらしたため、ようやく最近になって方向転換しました。

本作は昨年制作されたもので、舞台も現代。主人公のアン・ランは、元々医者を目指していたものの、男の子が欲しかった両親との確執もあり、経済的に独立することを優先させて今は看護師をしている。最近は両親とも疎遠になっていた彼女に、突然両親が交通事故で亡くなってしまったという連絡が。そして久々に実家を訪れると、そこには存在すら知らなかった弟・アン・ズーハンがいて、親類から弟の世話を押し付けられてしまう。

前述のように、2014年に一人っ子政策が終わったので、両親がそれ以降2人目の子供を作ったようで、アン・ズーハンはまだ学齢にも達しておらず、幼稚園に通っている年齢でした。

アン・ランは、看護師として勤めながらも医者になることを諦めておらず、北京の医大を目指して勉強していたので、幼稚園に通う弟の世話を拒絶するものの、周りから何のかんのと言って同居することに。それでも里親を探して1日も早く1人の生活に戻ろうとするものの、中々果たせない。それでもようやく里親を探して弟を引き渡すことに成功したものの・・・

両親が交通事故で亡くなった場面から始まったため、それまでの経緯などが全く分からない観客は、まずは両親が亡くなり弟を押し付けられるアン・ランに同情したんじゃないかと思います。ところが、あまりに強情で自分勝手とも思える彼女の態度に、同情しつつも首を傾げたんではないかと思います。ところが物語が進むにつれて、彼女が両親から受けた仕打ちが語られるにつれて、彼女への共感が再度芽生えるように創られていたところが、非常に上手だと感じました。

特に、一人っ子政策で第2子を作ることが原則禁じられていたものの、第1子が障碍者であった場合などは、特例が認められていたようで、アン・ランの両親は彼女を障碍者と偽って第2子を作ることを認めて貰うよう役所に申請していたことが語られるに至り、そりゃあ彼女が強情になるのも仕方ないよなと感じることになりました。

また、弟の世話を押し付けた親類たちも、自分勝手な行動をしたりするものの、最終的にはそれぞれの事情が分かるような話になっていて、観客を安堵させることに。

そしてはじめはそりが合わなかった弟との関係にも、徐々に変化が出てくるところも、観客の心を鷲掴みにする説得力があったように思います。

ちょっと疑問だったのは、アン・ズーハンのあまりに理知的過ぎるところ。彼を演じた子役・ダレン・キムは、「天才子役」と称されているようで、確かに演技は上手いんだけど、幼稚園児が大人とまともな会話をするなんてことは、実際にはまず無理で、その点リアリティが低かったかなと思われました。勿論姉弟の関係、会話が本作のメインテーマなので、2人の会話なくして本作は成り立たないのですが、少し残念な設定でした。

そうした部分がありながらも、一人っ子政策がもたらした悲劇に光を当てた価値は非常に大きく、評価は★4としたいと思います。

鶏