「個性的なギャングたちの演技を、物語が支えていない」グッバイ・クルエル・ワールド Uさんさんの映画レビュー(感想・評価)
個性的なギャングたちの演技を、物語が支えていない
◉ 終わり方が情けない
瀕死の安西(西島秀隆)と蜂谷(大森南朋)が、海を見下ろす道路の防護壁に寄りかかって、こんな所に住みたかった、そうだなみたいな会話が交わされた。この映画のテーマが居場所のない奴らだったからでしょうが、やはり取って付けたようなセリフ。次の瞬間、光溢れる画面が消えて、銃声(何故か1発)が響いて終幕。
ならず者であっても、行く場所は結構、あったりするのです。でも、物語の終焉としては情けなさは隠しきれなかったと思います。そこまでのストーリーの中で、強奪犯とヤクザ癒着のデカの絡みなども、油っこく見せられたはず。
「グラスホッパー」の最後で、死んだ二人の殺し屋が車で何処かに旅立ったのとは違う。
◉観たいものを観られない
力技のアクションと残酷な裏切り・騙し合いを織り交ぜて、ヤクザ+警察VS強奪犯の殺し合いで進行すると思われた物語。しかし、ラブホに持ち込まれたマネーロンダリングの金が、ヤクザから奪われた後のストーリーは、いったん主犯格の男たちの日常に戻り、ノンストップの闘いにはならなかった。
安西は元ヤクザの素性を隠して、旅館の立て直しに努め、浜田は悪徳政治家の追い落としを目論む。萩原(斎藤工)は次の盗みへ。こうした展開自体には、コクみたいなものを感じたのです。矢を引き絞って次の展開に備える。でも、そうはならなかった。
世の中の悪いことだけ選り抜いて生きている萩原と、頑張るように見えても基本、盗んだ金が元金で、しかもまた強奪犯に手を染める安西と浜田。それにヤクザ幹部(鶴見慎吾)率いるチームがごった煮になって、ヤケッパチの闘いが始まると期待した私の気持ちを、どうしてくれる‼︎
◉シュールの重みを支えきれない
話は、ある局面からシュールな狂気に変質していく。矢野(宮沢氷魚)と美流(玉城ティナ)がシースルーのレインコートを着て、喫茶店に乗り込む。ここで客を皆殺しにしたシーンを転換点として、現実の殺しから、まるで若者二人の脳裏で繰り広げられているような殺しに変わったと、私は感じたのです。
見捨てられた二人は、萩原と相棒を撃ち抜き、回りを牽制しながら去った……のではなく、片っ端からショットガンで他の客をバリバリ殺りくした。後の報道のシーンで、ヤクザや犯罪者が集まる喫茶店でしたと説明が入ったものの、ガチなハードボイルドの筋書きは、ほとんど消滅してしまった。
更に、この二人の若者の怨念が引っ張るシュールな殺しが本来の狙いだったとしても、ディテールだけはしっかりと作って欲しかった。二人とも細身なんだから、ショットガンの反動に身体が震えたり、慣れていないのだから撃ち損なったりするシーンもないと、作り物感(そりゃあどうしようと、作り物ですが)ばかり。
宮沢さんも玉城さんも、吹っ切れた不思議な空気感を出せる演技者だと思うのですが、今回のアクションは空回りに感じました。
監督あるいはヤクザ・警察・強盗たちの身勝手に付き合わされた気持ちが拭えなかったです。ただ、奥野瑛太さん初めどのならず者も、一人一人の映像は圧力に満ちていました。それは間違いない。
Uさんさん、コメントありがとうございます。
このシュールな二人の若者が評価の分かれ目だったのかもしれませんね。全体的にはぶっ飛んだ内容じゃなかったのに、彼らだけは別。キレるとこうなる風潮を表していたのかもしれません・・・