「優しい笑顔で心臓刺してくるような映画」LOVE LIFE といぼ:レビューが長い人さんの映画レビュー(感想・評価)
優しい笑顔で心臓刺してくるような映画
周りの映画好きの評価があまりに高いので、それに背中を押されて鑑賞しました。予告編すら観ていないため、内容に関する情報は一切ありません。
結論ですが、事前に予想していた内容とは全く異なり、非常に重い人間の裏表を描いた作品でした。間違いなく今上映されている作品の中ではトップレベルにクオリティが高いと感じましたが、内容が内容だけに万人にオススメできる作品では決してありません。
観ていて辛いシーンも多いので、鑑賞には体力が必要な作品です。鑑賞後は数日引き摺るタイプの作品です。それでも、間違いなく観る価値はある作品です。
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優しい夫である二郎(永山絢人)と再婚した妙子(木村文乃)。蒸発した前夫との子供である連れ子敬太(嶋田鉄太)と3人で幸せな生活を送っていた。敬太がオセロ大会優勝と二郎の父親である誠(田口トモロヲ)の誕生日祝いを兼ねて、ホームパーティが執り行われる。幸せなパーティの最中、少し目を離した隙に敬太が風呂場で溺死するという事故が起こってしまう。悲しみに沈み意気消沈の妙子の前に、敬太の死を知った前夫のパク(砂田アトム)が突然現れる。
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ある人物の死をめぐって周りの人たちが繰り広げる物語と言えば、昨年公開の吉田恵輔監督作品『空白』を思い出す方も多いと思います。それぞれの登場人物たちが加害者でもあり被害者でもあるという二面性が話の軸になっている部分も似ていますね。『空白』も結構重い内容の作品ではありましたが、本作の重さは『空白』をも凌駕している気がします。
本作の登場人物たちは、表面的には良い立ち振る舞いをしているのに、時折醜い裏の顔が覗くような感じで、そこが観ていて顔を顰めてしまうほどに生々しいんです。登場人物たちが自分の体裁を保とうとして良い人を演じているし、その言動がちょっと理解できてしまう分、身につまされるような気持ちになります。
『空白』の古田新太さん演じる添田が自分の感情を露にしていたのとは対照的です。『LOVE LIFE』では全員が真っ黒な腹の内を隠して良い人ぶっているのがたまらなく不快ですね。観客の心を押しつぶすような脚本とか撮影とか構成が上手すぎる。
また、長回しが多用される撮影も、映画の中で非常に効果的に使用されていると感じました。
敬太が風呂場で転倒して溺れている様子をこれでもかと丹念にじっくりと描写したり、ラストシーンで妙子と二郎が散歩に出かけるようすをベランダから見せたり。役者陣の演技の素晴らしさも当然あるんですが、長回しシーンはどれも素晴らしかったと思います。
そして個人的に一番気に入っているのが、タイトルの出るタイミングです。
本作は映画のラストでタイトルが出るタイプの映画なんですが、このタイミングが実に素晴らしかった。個人的な経験則ではありますが、「タイトル出るタイミングが良い映画はだいたい面白い」という法則があります。本作は私が今まで観た映画の中でもとりわけタイトルが出るタイミングが完璧で、尚且つ本編も面白い映画でした。
丹念に複雑に作りこまれた映画故、私の気が付いていない良さがまだまだたくさんあると思います。重くて鑑賞するだけで体力が失われる映画なのですぐにもう一度観るのは無理だと思いますが、いつか必ずもう一度鑑賞したい映画です。オススメです!!