「日本でリメイクしたら、こうなってました」アイ・アム まきもと 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
日本でリメイクしたら、こうなってました
2013年のイギリス映画『おみおくりの作法』を見た時、日本映画を見ているようだった。
孤独死した人を一人弔う民生係の男。
『おくりびと』にも通じるような人の死を扱った仕事、死生観…。
喜怒哀楽の感情を揺さぶるような作風ではないが、淡々とした中に、人の生と死をしみじみと浮かび上がらせる。
主人公の実直な仕事ぶり。無口で親しい友人もおらず、彼もまた孤独…。
社会のシステムや問題を込めつつ、不条理な悲しさと静かな感動を呼ぶ…。
日本ではミニシアターで口コミヒット。
いい映画を見たと素直に思えた。日本には『おくりびと』があるが、いい題材を出し抜かれたとも思ったもんだ。日本でも出来そう。
…と思っていたら、日本でリメイク。
にしても、監督と主演の名を見た時、正直驚いた。
水田伸生×阿部サダヲ。
『舞妓Haaaan!!!』『なくもんか』『謝罪の王様』などコメディで三度タッグ。
まさかこのヒューマンドラマの秀作をコメディに…?
心配は無用だった。そもそも、今回脚本はクドカンじゃないし。
阿部サダヲはシリアス作品でも名演と実力見せているし、監督もTVドラマではシリアス作品で高い評価を受けているよう。このタッグだからと言ってコメディばかりじゃない。
このタッグだからコメディを見たかった人には期待外れかもしれないが、所々ユーモアも滲ませつつ、真摯に人の生死を見送る…。
話は概ね踏襲。
とある市役所の“おみおくり係”の牧本。
真面目で物静かだが、故人を偲ぶ余り周囲に迷惑かけがち。警察はいつもおかんむり、馴染みの葬儀屋がフォロー。ここら辺、コメディタッチ。
職場でも閑職故、常に孤立。空気のような存在だが、本人もまたKY気味。
家に帰っても生活感全くナシ。食事も質素に黙々と。唯一の“家族”は金魚。
趣味もナシ。敢えて言えば、担当した故人の写真などをアルバムに収める事。
一貫して故人に思いを馳せる…。
牧本が担当するのは孤独死した人たち。
その状況は悲惨なもの。
誰にも気付かれず息を引き取ってから暫く経つなんてしょっちゅう。
故人の家の中はゴミ屋敷同然で、異臭も放つ。
彼らはどんな人生を…?
身寄りも無い。人付き合いも無い。社会に居場所も無い。…
似たような境遇の牧本。彼らに自分を重ね合わせているのだろうか…?
事情は人それぞれ。せめて最期くらい、誰かに偲ばれて…。
いや、受け入れ、引き取ってくれる遺族だって必ずいる。
牧本はそう信じているが…。
見放された人たちへの社会の対応は無情。
完全に縁切り。勝手に死のうがこちらには関係ない。葬式出席や遺骨引き取りなど拒否。
生きてても孤独。死んでも孤独。
彼らを思う人はいないのか…?
牧本がいる。
しかし、またもや不条理。新任局長が“おみおくり係”の廃止を決定。
引き取り手の無い遺骨などさっさと無縁墓地へ。“おみおくり係”や牧本がやってる事も無駄。
死んだらただそれだけ。何も残らない。
本当にそうなのか…?
無情に言い放つ局長に、牧本は反論。“思い”がある。
牧本が言っている事は理想的な感情論に過ぎないかもしれないが、そうありたいと願うのが人の心。
この冷血局長にこそ孤独死を!…だが、こういう輩に限って盛大に見送られる。
対して牧本は…。
牧本最後の仕事。孤独死した老男性の遺族を探す。
故人はかなりのトラブルメーカー。
大声を上げたり、アパートの住人たちと揉め事を起こしたり。
職場でも問題行動。彼を知る人に尋ねても、出るのは悪いイメージばかり…。
が、中には…。職場で不条理なシステムにブッ飛んだ行動で抗ったり、彼に助けられた人も…。
本当にただの嫌われ人間だったのか…?
やがて、唯一の身内を見つける。娘。
絶縁状態だったが、牧本の人なりに心許したのか、父の死に向き合おうとする。
葬儀の日が近付くが、その時悲劇が…。
老男性の葬儀に娘や知人が参列。牧本の思いが伝わった。
思い偲んでくれる人たちは必ずいる。人は決して孤独ではない。
…いや、
同じ墓地でもう一人埋葬。
孤独死した人たちの為に尽くしたのにも関わらず、その本人が悲しすぎる独りぼっちの死…。
誰も彼を思い偲んでくれないのか…?
思わぬ“参列者たち”が。彼に感謝を込めて…。
話もオチまでもほとんどそのまま。
ユーモア、人情、人の繋がり、悲しさ、切なさ、問題提起、そして何処か救われる…。
満島ひかりや宮沢りえらキャストの好演。
基がいいだけに、勿論本作も好編だ。
が、あまりにも忠実過ぎて、ちょっと芸の無さも感じてしまった。
オリジナルはあんなにしみじみさせたのに、何かちょっと淡白と言うか…。
阿部サダヲも勿論好演だが、ヘンな違和感も…。
人情味あり、ユーモア滲ませ、時々周囲に迷惑かけるKYな所はドンピシャだが、時折言動がイライラさせる。
人の話を聞いていないような、鈍いような、とんちんかんのような…。
何か訳でもあるのかと思ったら(例えば最後は事故死ではなく、本作オリジナルの病死でその前兆とか)、特にナシ。
発達障害気味と見て取れる。とは言え、
局長の飾り物に“アレ”するシーンや孤独な家でアルバムの故人を眺めるシーンは、せめてもの仕返しや侘しさ感じさせると同時に、何処かサイコパス…。
そう感じるのはまだ『死刑にいたる病』の影響…?
それは冗談として、ちと哀愁が足りなかった気がする。
その点、オリジナルのエディ・マーサンの滲ませる哀愁は絶品だった。
すんなり日本でも置き換えられると思いきや、
勿論悪くはない。頑張った、頑張った。
が、ちょいちょい“作り”に違和感を感じてしまった。
牧本の妙な癖のよう。日本でリメイクしたら、こうなってしまいました。