「邦画アクションでは珍しくドラマパートの画作りにこだわった秀作」リボルバー・リリー うしねこ:映画の『画』を評価するタイプさんの映画レビュー(感想・評価)
邦画アクションでは珍しくドラマパートの画作りにこだわった秀作
珍しく劇場で2回鑑賞。
予告で思った通り、映像美が素晴らしく、キャスティングが優秀で世界観の構築レベルが高かったので気に入った。
鈴木清順の『夢二』っぽい雰囲気と行定監督の『うつくしいひと』と任侠映画を混ぜた感じかと思ってたけど、思った通りだった。
あと宣伝でミスってるかなって思うのは、多分企画上部のスタッフはジャンル化したアクションとして撮ってないし、企画してない。
完璧な作品ではないけど、いい意味で変で良い。
邦画芸術系アクションジャンルの黎明期作品になってほしい。
以下ネタバレ。
◾️キャストについて◾️
キャスト陣については時代物の空気感を纏える人をきちんとキャスティングしていたので、この点が大いに作品を助けたと思う。
撮るだけで画になるオーラを纏えるキャストを、余計な味付けをせずちゃんと活かした撮り方だった。
主演の綾瀬はるかはCMやバラエティのキャラより、クール系の方が似合うお顔立ち&骨格なので、やっと映画でこっちの役が来たなって思った。
コン・リーや夏目雅子や小雪と同系統のお顔立ちなのに、ブレイク後の映画ではそっちの要素を活かされてこなかったのが本当に不思議。
今作での彼女は偉大なるキャンバスという存在感だった。
個性ある共演キャストの個性を殺すことなく、しかしいないシーンでもゆったりと百合の気配が落ちる。
理想的な主演女優の佇まい。
清水尋也と古川琴音は若手のうちにこの映画でその魅力をちゃんと映して貰えて本当に良かった。
綾瀬はるかと清水尋也の霧中の対峙シーンはこのキャストじゃ無ければおそらく画的に成立せず、寒い演出に見えただろうし、清水尋也は今までも他の映画で重要な役で見ていたはずなのに、この映画でやっとその存在の稀有さを認識した。
古川琴音は似た役を他でも見たけど演出演技指導は今まで見た映像で一番良かった。あのモダン着物のお衣装が本当に良く似合う。
二人とも今の日本でこの映画内の役を変われる若手演者はいないと思う。
ベテラン勢だと佐藤二朗の描き方は今までコメディイメージから出る造形で新境地だったと思う。
羽村仁成は今回初見だったけど、素朴さ愚直さがとても良かった。
好きなキャストが起用されすぎて全てのキャストには言及出来ないけれど、長谷川博己が岩見で本当に良かった。彼がこの映画の案内人だったような気がする。
◾️映像美や世界観について◾️
行定監督や撮影の今村圭佑、美術の清水剛は課せられた役割はきちんと達成しているし、時代物映画としては現代の邦画では最高レベルの映像美を作って貰えて好印象。
音楽も当時の流行歌を効果的に使われたり、大人の都合のJ-POPは無しでちゃんと映像に合った音を聴けてよかった。
そしてこれは嬉しい誤算だったけど、映像重視の娯楽性無しな映画になるかと思いきや、ミステリー要素もある西部劇という雰囲気で以外なほど真っ当な娯楽映画になっていた。
台湾時代の百合のシーンはフィルム時代の発光感に近い映像になっており、こういう映像部分のこだわりが好きな層には堪らない作品だった。
同日に『さらば、わが愛/覇王別姫』を見たので、高解像度化で当時の名作映画と全然異なった撮影環境になってるはずなのに、同種の映像を見れたことには素直に感動する。
素敵な画がいくらでも出てきて幸せだったので、このチームで時代物映画を定期的に撮ってほしい。
️◾️良くなかった部分◾️
肝心のガンアクションの集団戦ではガンアクション部分とCGの設計権限者の映像美的な部分の未熟さが出てたと思う。(一対一の時の体術のアクション設計は良いのに、団体戦のコンテが現代の映画レベルに達していない)
脚本が悪いという意見、よくよく見ると団体戦のコンテが悪いと言っているものが多数だと思う。脚本はわりと良い。2時間半飽きずに見れたのは脚本が優秀だから。ガンアクションのコンテが悪い。もしくはコンテ内部の人物の動きがコンテの情感を理解して振り付けしていない。
霧の部分は団体戦で大勢の敵が主人公側の都合に良いように攻撃を待つという不自然さを解消する舞台設定で好きだったけど、あれはどうやら行定監督が大枠を設定してたらしい。
特撮系やリアル系のアクション設計の弱点が映像美側視点(おそらく舞踏系の構想を持っていた。殺陣の発展系?)の監督アイディアによってカバーされた部分も結構あったのだと思う。
おそらく監督意図としては舞台やMV的なセンスがアクション動作にも欲しかったのだと思う。殺陣や体術の設計担当はおそらくこういう意識を理解していたはずだけど、ガンアクションはリアル寄り視点に人材が偏っている傾向がある。故に詩情的舞踏的コンテの内部の動きがリアル系だったりして、まとまっていない印象になっている。
時代劇の殺陣もアクションも本質は「舞踏」なのではないかという視点で撮られてるので、今作のアクション振り付けにはそういうセンスが求められていた。
映画の責任者はプロデューサーと監督ではあるけど、不評部分がどの権限者の仕事かと言われると時代劇系のご都合悪役の振り付けから出られないガンアクション設計にあったと思う。そしてそこの担当者が実は不在なのではないかと思った。(監督の絵コンテはあっただろうけど、アクションバイオレンス系をよく撮る監督すら銃のコレオ設計は多分出来ない)
アクション監修や監督はいたはずなので、ドラマパートが得意だけどアクションは初めてという監督のバランスをもっと調整出来ると期待していた。そんなに怖くて我が強い監督だという印象はないし。インタビュー集を見ると結構下からの現場意見は拾うタイプの監督っぽいし。
リアル系でなければならないシーンはコンテ設計やカメラワークに口を出すなりする必要性があった。アクションファンが言うような「監督のせい」という分かりやすい問題ではなく、ガンコレオの人材不足の都合でハーモニーが上手く設計出来なかったことが問題な気がする。
いない楽器(ガンアクションコレオ)を指揮者(監督)は鳴らせない。
CGは運搬船や海のシーンが全体的にダメだった…。
これはシンプルに制作費が足りてない部分が画に出たと思う。横浜港のシーンは直前のシーンと同じロケーションで撮っても良かったと思う。
◾予算の問題◾
色々書いたけど、「予算が足りない」「銃のリロードなどを魅せるコレオ設計が出来る銃器担当者がまだ育っていない」、この点だけで十分なのかも。
歴史物時代物の予算は最低限5-10億から、そこにアクションをトッピングすると全然足りてなかったというか。
予算を足して最後の舞台設計は突入ではなく脱出に書き換えて、大きなセット内で敵を削っていく設計にすべきだった。
あの野外で軍がしっかり固めてる門を目指して勝てる描写は文章でしか説得力を持たない幻想なのだと思う。
いくら監督が専門外だったとしても、そこは実写で構築不可であるとして設定変更を要請するチーム力がないぐらい大きな意味でアクション撮影が育ってない事実は見えたと思う。
◾️邦画アクションについての愚痴◾️
邦画アクション映画に出がちなダサい(舐められる)エロさを纏った女や、便所臭い下品な女(演者の悪口ではなく、アクション、バイオレンス、ホラーはそっちの下ネタシーンが高確率である)が出ず、『リボルバー・リリー』はこの点だけでも高く評価したくなる。
よく見る批判に「反動の演技がない」ってのが多いけど、ハリウッド作品も2:8(反動あり:反動無し)ぐらいで反動はついてない。
でも勢いやリズムがあるのはカットの重ね方やエフェクト的なカット構築の映像ノウハウがあるからなので、raw映像の問題だと思っているアクション業界人が多い時点でアクション好きの人の映像的批評能力に疑問を感じてしまう。
あとリアル系反動演技に一番近いのはジェシーさんなのに、彼を事務所で見て批判する人もアクション好きには多い。
反動演技しているけれど引の画で動きが潰れてる(視覚能力が弱い人は意識しないと視認出来ない)箇所などもあるので、この批判は批判ありきのコピペ批判なのだと思う。
型ごとの銃の扱いがよく分かってない人も言いやすい部分だし。
ガンマニアは装填シーンを省略しない部分は褒めてたりするし。
邦画のアクションは作る層も見る層も煮詰まってマニアックな方向に先鋭化してる印象。
アクション系を専門にする監督はなぜ中〜大規模予算のそこそこ気合いの入れた作品がアクション専門外の行定監督に任せられたのか考えてほしい。
話題性もあっただろうけど、「格」のある映画を撮れる監督というのは絶対条件だったと思う。
パンフレットにもイメージ作品として名前が上がっている『緋牡丹博徒』は60年代の作品だけど、高貴な女主人公像だったと思うし、『リボルバー・リリー』はそっちのヒーロー像をようやく復活させてくれた作品だと思う。
◾️最後に◾️
アクション作品で一般部門の国際賞を狙うなら文芸系監督とアクション設計が互いの足りてない部分を上手く補い連携しないと無理だと思う。
そっちの道があるとしたら、この作品は殺陣と特撮以外の舞踏芸術寄りアクションの黎明期的映画だった気はする。
良いところがいっぱいあったので、アクション設計側はたまに分野外の監督と組んでみてほしい。
邦画においてジャンル化して煮詰まった組織だと生まれないアクションコレオがこの映画には絶対あった。
私は行定作品の意味深さは好きなので、アクションファンが求める活劇に振ると絶対見なかった客ではあるんですよね。
多分この映画の雰囲気は『リング0』とかの90-00年代雰囲気重視ホラーやサスペンスに近くて、設定的にはゲームの零シリーズ(濡鴉の巫女)を彷彿とさせます。
私もそうなんですが、そっちが好きな層には堪らなくウケてるし、その客層は任侠物の様式美が結構好きなので。
緋牡丹博徒が肩の力を抜く作品というイメージは無いのですが、アクションファンにウケている敢えてのチープさやおもちゃ感に甘えない娯楽性はあったので、同じ線上の作品だとは思います。
プロデューサーがパンフレットで言及してらしたぐらいですし、長谷川博己さんは確実にそこを狙って役を作ったと思いますし、そのイメージの共有は綾瀬はるかさんもしてそうですね。