「(無理に)大正浪漫ファンタジー(に変えてしまった)?」リボルバー・リリー だるちゃさんの映画レビュー(感想・評価)
(無理に)大正浪漫ファンタジー(に変えてしまった)?
【2023年9月24日 原作読破後追記】
映画鑑賞後に640頁強の原作を読破しました。
公開後1ヶ月半が経過し、惨憺たる興行成績となっておりますが、なぜこの映画がこれほどまでに低評価なのか納得が出来ました。
他の方のレビューでは、
・アクションに不慣れな行定監督の演出力不足。
・ジャニタレの演技力不足。
・冗長な展開と長い上映時間。
・ターミネーター張りのリリーの不死身感。
・ご都合主義の設定。
等を指摘する声が大半ですが、個人的には、ひとえに脚本が原因だと思います。(行定監督は脚本兼監督らしいので、結局はそこに集約されますが。)
映画で感じた次の様な違和感について、原作では納得性のある理由が説明されていました。
・なぜ一介の街ヤクザが軍上層部に侵食できた?
→武器商社のドンとして横流しなどで癒着していた。
・なぜバニッシュ契約という不利な契約を締結した?
→軍の押収を回避しつつ相続させようと企んでいた。
・なぜ急に海軍省前で霧が立ち込めた?
→海軍が援護のために大量の発煙筒を使用した。
・なぜ陸軍は白昼の日比谷公園で防衛網を張れた?
→対テロの軍事演習という名目の許可を得ていた。
・なぜリリーは多数の陸軍兵相手に傷を負わない?
→演習と聞かされていた兵士が多かった。
→傷は負うが、その都度縫合していた。
この様な説明が端折られた上、ストーリーだけは淡々と進んでいくので、観客はポカーン状態になってしまったのが、本作の根本的な敗因だと思います。
そもそも、根本的な設定もかなり違っていました。
原作では幣原機関を創設した水野と、防衛費を横領した細見は別人であるにもかかわらず、映画では同一人物との無理な設定に変更してしまったため、混乱を招いた。
幣原機関を創設したのが、陸軍機関ではなく、街ヤクザから発展した水野通商という武器商社で、百合はその創業者(豊川悦司)の妾であったこと、その後継者(佐藤二朗)も街ヤクザではなく、陸軍上層部と癒着した武器商社の社長兼広域暴力団のドンであり、百合とは子供の頃から付き合いがあったこと等の細かい設定が、映画では全無視されています。
また、ザ佐藤二朗という毒々しい演技も、この役柄に限っては仇となっている気がしました。
むしろ、鈴木亮平が暗殺者Xではなく、息子のエリートヤクザを演じたが、逆にリアリティが増したのではと思います。
ランブル前での市街戦、無謀なバイクでの特攻、等のアクションシーンについては、いくら法整備途上の大正時代だとはいえ、あまりにも非現実的な違和感を感じましたが、これらは原作には登場せず、あくまで映画的ウケ狙いの演出だったものと思われます。
また、原作では百合は無双ではなく、戦闘中の負傷で顔が腫れ上がったり吐瀉物まみれになったりと、泥臭く描写れていますし、敵から奪ったリボルバー以外の自動拳銃をはじめ、手榴弾、ダイナマイト、毒ガス等も多用したりと、リボルバーだけで戦っている訳ではなく、もっと現実的で効果的な戦闘をしています。
いつまでも綺麗な顔のままの綾瀬はるかではなく、シャロンストーンが演じたアトミックブロンドの様に、カッコ悪くてもいいから、顔中アザだらけキズだらけで、泥臭く生々しいアクション演出に徹した方が、観客は納得したのではと思います。
原作の読破は厳しいかもしれませんが、時代考証も含めてかなり読み応えがありましたし、読書好きの方なら、地に足着いて映画の背景を理解するため、「読んでから観る」のが正だと感じました。
中途半端な奇をてらわず、原作の設定通りに映像化すれば良かったのにというのが、映画と原作の両方を踏まえた印象です。
【2023年8月11日 劇場鑑賞】
原作未読、前知識無でしたが、ポスターのデザインが非常にカッコ良かったので、鑑賞してみることにしました。
第一印象としては、大友監督の「るろうに剣心」シリーズが、考証や設定には拘らず、佐藤健の身体能力を全面に押し出したファンタジー明治浪漫として成功したのと同様、本作も同じ路線を狙ったのかなと感じました。
キレッキレの綾瀬はるかの身体能力には目を見張るものがありましたし、大正時代の建物セットや衣装も堪能する事が出来ました。
辻褄合せでご都合主義のストーリー展開、必然性のない登場人物、一部出演者のオーバーアクションに目をつぶり、あくまでファンタジー大正浪漫として割り切れば、それなりの満足度は感じられると思います。
小曽根百合というキャラ自体も、画角や焦点や編集次第では、攻殻機動隊における草薙素子に匹敵するクールビューティになりうる可能性を感じましたが、凡庸な演出のせいで、折角の綾瀬はるかさんのアクションを活かしきれていない印象だったのが残念でした。
行定勲監督が初のアクション映画に挑戦というのがひとつの話題性だった様ですが、これだけお金をかけた作品での冒険をする意味が理解出来ませんでした。
やはり、アクションに振り切るなら振り切るで、それを得意とする監督を起用すべきだったのではと思います。
また、ストーリー自体も非常に単純で、原作そのものがそうなのか、脚本がまずかったのかは判りませんが、伏線の未回収放置や、一介のヤクザ事務所が陸軍上層部に通じていたりと、興醒めする設定で、稚拙なイメージでした。