「シシド・カフカの、馬賊の姉さんが120点。」リボルバー・リリー TMさんの映画レビュー(感想・評価)
シシド・カフカの、馬賊の姉さんが120点。
原作未読。
全体の印象は、無敵系ダークヒーロー(イコライザーや、アジョシとか)ものを水で薄めすぎた感じ。正直時間が長く感じた。いい意味で「おっ」と思う部分もあるのだが…
綾瀬はるかの衣装や肉体美、着物で銃をぶっ放すシシド・カフカ等は見どころ。正直、綾瀬はるかの衣装とシシド・カフカのパートだけもう一回見たい。
音楽も頑張ってたと思う。
対して、不満に思った点。
ストーリー、アクションは間延び感が否定できず。
・「良い敵役」が不在。
主な敵役である陸軍が上から下まで全員間抜けで、綾瀬はるかが引き立たなかったように感じる。
数が多いだけの、豆腐みたいな敵に徹していた。クライマックスには、もう少し歯ごたえのある敵がいて欲しかったかな…
「シベリアで匪賊狩ってた」とかいう経歴の将校が、まともな指揮もせず部下を全滅させてたのにはちょっと……もっと悪辣でいてほしかった……。
大佐職の人も、部下を怒鳴るだけ。大尉が、ヒステリックに怒鳴るだけ。
ろくな布陣も組めない士官が「匪賊を狩ってきたエキスパート」扱いなのはさすがに不整合が過ぎる。
(冒頭でイコライザーを挙げたが、あれはテディという悪役が冴えているから成り立つ作品なわけで)
俳優の演技に疑問符があるが、根本的に、「この映画の世界において、悪役としての陸軍がきちんと設定されていないのではないか」と感じる。であれば、俳優の演技付けにも説得力が出るはずもない。
「ドラマで見る一般的な旧陸軍のイメージ」を出ていないように思う。「権力、悪の象徴」≒「最も大きな敵」とするなら、そこは違和感なく見えるように頑張ってほしかった。
圧倒的に製作スタッフの少ないコミックやアニメーションでさえ、裏付けと設定づけをやれているのだから、これほどの大作においてそこで手抜きをしないでほしかった。
「大きな嘘」を引き立てる「小さなリアリティ」の不在が痛い。
・ダメージ表現や全体のアクション構成にアラが大きい。
「リアル系アクション映画」「コマンドー系大味アクション映画」がまだらになってるので、そのつなぎ目で興ざめポイントが出来てしまう感じ。
いくら怪我をしても頑張れば立ち上がれる小曽根百合(無敵モード)に、クライマックスの緊張感が欠けてしまった。
爆発音で耳がキーンって鳴る演出も、他がリアルに描写されてないのにコレやってもな、という感じ。
・キャラクターにはいい素材があるのに、見せ場がアレッ?という感じでもったいない。
シシド・カフカが元馬賊というなら、棒立ちガンアクションではなく馬賊姿の乗馬で出して欲しかったし、士官は士官らしく冷徹な悪役であってほしかった。
綾瀬はるかの衣装の着こなしがいいだけに、軍服勢の肩周り胸周りのスカスカ感が目立ってしまうのも気になるポイント。
・ストーリー面で、「経済による支配」という概念が語られていたが、小曽根百合ほどの経歴の人間がそれを「平和のための手段」として語るのには違和感。
あの時代の時点で、英国やスペインによる植民地支配≒経済的な支配も既に存在していた訳で、そのえげつなさを知らない小曽根百合ではないだろう。
「戦争回避のための必要悪」ではなく、「平和的手段」として描写されていると、「うーん……」という感じ。
総じて、全体の構成を絞って、アクションを底上げしたら退屈させない作品になってたと思う。
「観客に分かりやすくする」苦労は見受けられたが、ここまで単調にされると「このテーマだし、もう少し観客が読み解く力を信じても良かったのでは?」と思う。
ただまぁ、「リアルな痛み」を感じさせるシーンは少ないので、その辺が苦手な人はいいかも。