「映画化するのであれば」破戒 金村輝美さんの映画レビュー(感想・評価)
映画化するのであれば
企画、脚本、監督、構成、カメラ、配役、音楽すべてにおいて中途半端な映画になってしまった。
最初の宿のおかみ、校長、しほ、住職、丑松ほか、ひとりひとりの技量どうこうではなく、配役ミスだと感じた。
小説を読んだときは胸が苦しくなるほどにつらかったが、この映画では丑松の心の極限の描き方が浅すぎた。丑松の感情のピークを、教員室でのやりとりに持ってくるべきではなかった。ただ大声を出させただけ、演出ありきの演技になってしまった。
カメラワーク、音楽もそう。
まるで時代劇のような撮り方では映画としての値打ちがなくなる。ドラマでもよかったのではないか。
音楽も効果的に使われたシーンが一度もなく、あえてそうした可能性もあるけれど学生作品の静かなドキュメンタリー映画を観ているような感覚に陥った。
もったいない、もったいない。
この題材を映画化するのであればなぜもっと詰めることができなかったのか。
じゃあ、監督や役者は誰がよかったのか?と聞かれても思い浮かばない。
日本にはもうこういう役を演じることができる若手の俳優がいないのかもしれない。
ドラマも映画も同じ顔ぶれをグルグル使いまわしているだけ。
監督も中の上はたくさんいるけれど、このテーマを撮ってもらうならこの人!という人はいない。
島崎藤村の破戒を熟読したスタッフはどれだけいたのだろうか。
丑松の感情のピークが教室でのやり取りだと思われたのですか?自分の意見をハッキリ言っただけで大声ではありません。演技の迫力が大声に感じたんだと思います。とは言え感じ方は人それぞれ、今まで生きてきた中での出来事などで敏感に感じる場所であったり他人の気持ちににどれだけ寄り添えるかによって生まれる感情も違うでしょう。思わぬ低評価を残念に思います。