「本気じゃない」まなみ100% sankouさんの映画レビュー(感想・評価)
本気じゃない
10年間も同じ相手を好きでい続けられるなんて、どれだけ純愛なんだと思っていたらまったくそんなことはなかった。
なんなら主人公は女性関係の途切れないチャラ男君だ。
冒頭もいきなり相手の娘に何人セフレがいるのかと問い詰められ、部屋から追い出されてしまう。
それでも高校一年生の時に初めてまなみちゃんと出会ったボクは、10年間ずっと彼女を想い続けているのだ。
ボクは目先のことにしか興味がなく、不誠実で常に調子は軽いが、勉強もスポーツも頑張ればそれなりに結果を出せる器用な男だ。
あからさまに受験科目にはない分野の勉強は手を抜き、意味があることにしか熱を入れられない。
正直最初の印象は最悪で、実生活にいたら絶対に好きになれないタイプの人間だ。
彼は生きていく上での大きな目的がない。
だから何もかも中途半端なのだ。
しかし本当に不誠実で無気力な人間ならば、部活に打ち込んだりはしないだろう。
彼はまなみちゃんの影響で器械体操部に入部するのだが、ただ不純な動機だけで部活に参加しているのではない。
物語が進むにつれて、彼も本気で何かに向き合うことが出来る人間であることが分かってくる。
彼が斜に構えているのは格好をつけているだけではないだろう。
ボクは本気でまなみちゃんのことが好きなのだ。
けれどいつもまなみちゃんと向き合う時は、何度も「結婚しよう」と冗談にしか聞こえないような言い方をしてしまい、「本気じゃないでしょ」と軽くあしらわれてしまう。
実はボクは強い想いを持っている時ほど軽い態度に出てしまうのだ。
それはひとつの防御反応でもある。
人は深いところまで人と関わり合うことを恐れる生き物なのではないかと思う。
相手に対して深く強い想いを持っている人ほど、案外恋愛が成就しないような気もする。
どちらかといえばボクのように軽いノリの方が相手が途切れないものだ。
ちょっとした心の隙間を埋めるにはボクのような人間の方が気が楽なのだ。
しかしボクのような熱のない人間は次第に遠ざけられていく。
高校を卒業してボクとまなみちゃんの距離はどんどん離れていく。
でも実はまなみちゃんもボクに好意を抱いていたはずなのだ。
二人が花火を観るシーンで一瞬だけ真面目な空気が流れる。
まなみちゃんも「本気じゃないでしょ」と口にすることで、ボクと向き合うことから逃げていたのだ。
これは深く関わり合うことを恐れる人たちの物語でもある。
器械体操部のマドンナ瀬尾先輩とサトシ先輩の関係もとても象徴的だった。
部員の誰もが二人がいい仲であると感づいているのだが、二人とも付き合ってはいないとあくまでも否定をする。
しかしその態度はどこか煮え切らない。
瀬尾先輩は若くして闘病中に亡くなってしまうのだが、死の直前に初めてサトシ先輩に告白をしたらしい。
しかしサトシ先輩は最後まで返事をうやむやにしてしまった。
瀬尾先輩とサトシ先輩、そしてボクとまなみちゃんが結ばれても、幸せな生活が続いたとは思わない。
それでも心の中で想う相手がいながら、最後までその気持ちに蓋をしてしまうのは悲しいことであるとも思った。
でも、人生とはそんなことの連続なのだろう。
とても現代を象徴するような人間模様の描き方がリアルな作品だったが、やはり主人公の軽さに最後まで共感出来ず、大きな感動には繋がらなかった。