劇場公開日 2023年9月16日

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「ジャーナリズムは民主主義を支える柱」燃えあがる女性記者たち 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0ジャーナリズムは民主主義を支える柱

2023年9月21日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

インド北部のウッタル・プラデーシュ州で生まれた新聞社「カバル・ラハリヤ(ニュースの波)」で活躍する女性記者たちに密着したドキュメンタリー映画でした。このウッタル・プラデーシュ州には、有名なタージ・マハール廟がありますが、本作ではそうした観光要素は一切なく、昨今国際社会において飛躍的に存在感を増しているインド社会の現実を真正面から取り上げたド直球の作品でした。

「カバル・ラハリヤ」の記者たちは、カースト外の不可触民出身の女性たちであり、ただでさえ差別の対象となる階級の出である上に、女性が外で働くことに対してすら批判的なインド社会において、取材対象とだけでなく、無理解な家族とすらも闘いながら懸命に取材する姿が、観る者の共感を呼ぶ作品となっていました。日本も他人のことをとやかく言えたものではありませんが、インドにおけるミソジニーはかなり酷いようで、日本でもたびたびインドで発生したレイプ事件が報道されます。ところがこうした被害者が警察に届けても、中々取り上げて貰えなかったり、警察に訴えたらさらに酷い目に遭わせると脅されるなどといったことが結構な頻度で発生しているようで、そうした声を上げられない被害者や、警察への取材を通じた同紙の記事が話題になり、犯人逮捕に結びついた例もあったようです。

また同紙は元々紙媒体で発行していたようですが、2013年からスマートフォンで撮影した動画ニュースをウェブサイトに合わせて掲載するようになり、この戦略が一定の成功を収めているようでした。この辺りは時代に即応した挑戦であり、かつ見事な経営センスだと感じたところです。

さらに弱い立場の女性にスポットを当てた記事だけでなく、政治にも鋭く切り込んでいるところも素晴らしいところ。インド人民党を率いる現首相のモディが、ヒンズー教ナショナリズムを利用した統治を行っていることにも言及。ヒンズー教のお祭りでインド人民党マークが使われていることにも切り込むなど、観ているこちらが冷や冷やするような果敢な取材を続ける記者たちに、ただただ頭が下がるばかりでした。

ちょっと脱線しますが、昨年大ヒットしたインド映画「RRR」は、確かに大変面白い映画でしたが、インド独立の話でありながらガンジーは登場しませんでした。これはヒンズー教以外のイスラム教などにも融和的だったガンジーを敢えて排除することで、ヒンズーナショナリズムを高揚させる意味合いもあるという解説もありました。それを考えると、「カバル・ラハリヤ」のスタンスと言うのは、まさに真のジャーナリズムと言えるのではと思います。

そして本作が最も強調していたのは、「ジャーナリズムは民主主義を支える柱である」ということ。先ごろインドは中国を抜いて人口世界一の大国となりました。必然的に民主制を採用する国としても世界最大。しかしながら、出自に関わらず教育が全国民に行き届き、正しい情報が周知されない状態では、選挙をやっているからと言って民主主義は正常に機能しません。最近の日本も他人のことを言えませんが、インドの民主主義の現状はそうした観点からまだまだ極めて脆弱であり、それをジャーナリズムの側面からより良い状態に持って行こうと奮闘する「カバル・ラハリヤ」の記者たちに、最大限の賛辞を贈るとともに、こうしたジャーナリストが日本にも多数生まれて欲しいと願ったところです。

鶏