「衝撃の国家犯罪とクリスティンの圧巻演技」セバーグ ハベルさんの映画レビュー(感想・評価)
衝撃の国家犯罪とクリスティンの圧巻演技
「悲しみよこんにちは」(1958)や監督・脚本ジャン=リュック・ゴダール、出演ジャン=ポール・ベルモンドの「勝手にしやがれ」(1959)でひと際名高いジーン・セバーグがアメリカ人とは、しかも公民権運動や全国有色人向上運動やブラック・パンサー等を支持と出来うるサポートをした進歩的リベラルのため国家に反米の烙印をおされたとは、まるで存じ上げませんでした。
フランスでのヌーベルバーグの洗礼を受け世界的大ヒット作女優としてのプライドからか、随分と大胆と言うか信ずるままに行動したことが、事実としてFBIの監視下におかれ、何から何まで盗聴から証拠写真までの恐ろしさ。映画は徹頭徹尾監視の実態を描き、危険分子は抹消あるのみと現在の中国とまるで同じことを当時は行っていた事実をあからさまに、やがてセバーグが心身ともに衰弱することを目指していたってんですから恐ろしい。
ただ、ひたすらセバーグが壊れてゆく様を描くのみで、国家の度を越した悪事を暴くような展開にはならず、これ全編気持ちの落とし所がないのが辛い。イケメン役者アンソニー・マッキー側も一切の反撃がないのも見せ場を欠く。ヴィンス・ヴォーンとジャック・オコンネルによる盗聴サイドのうち若きジャックの夫婦の仔細をも描くことから、何かしらの「転」があるかと思いきや、レストランでの電話による忠告と言うより脅し、そしてクライマックスたる静かすぎるパリのバーでの接触のみ。事実に基づくとは言え地味過ぎる。
そのクライマックスでの全てのトリックが明白にされた時のセバーグを演ずるクリステン・スチュワートの演技が白眉に達する。もとよりこの華奢な女優のガラスに似た壊れそうな雰囲気が本作を支え、見事な女優魂を発揮する。恋多く無鉄砲なイメージも近頃はすっかり演技派の様相で、本作に続く「スペンサー」でのダイアナ妃役も評判とか。セシル・カットももとより普段のクリスティンですし、本作を演ずる最適女優でもあった。それにしてもやっと30代!圧巻のクール・ビューティーで大きく花開いて欲しいものです。