「タイトルなし(ネタバレ)」ザ・ホエール まゆさんの映画レビュー(感想・評価)
タイトルなし(ネタバレ)
同性愛者の主人公チャーリー
家族を犠牲にしてまでも愛した男性アランの死によって極度の肥満になり、死期を迎える月曜日から金曜日までの5日間を描いた物語。(多分五日間)
チャーリーはエッセイストであり、オンライン教師である。
エッセイでは、本当の自分、内なる自分の心を写すことが美徳であると教える。それは、邪悪でもいいのだ。本来の心を写す事、ただそれが美しいのだと。
彼が心から美しいと思うエッセイがある。
“白鯨”。人間が鯨を殺すことを計画する物語。白鯨には、感情はない。だから全ては無駄だ。と、8歳の娘が描いたエッセイだ。このエッセイは彼の最後の生きる力となっている。娘であり、自分の体の一部のような彼女を愛し続ける。極度の反抗期と皮肉屋な彼女を、君は完璧だと言い続ける。娘と父親には同じ魂が半分づつ宿っているように感じた。8歳の時に父親に去られ、父親を大っ嫌いなようだが、どうしても離れられないもどかしさ。怒りをぶつけるために父親に会いに来ているようだが、彼女の表情や言葉と態度、全てはチャーリーとの時間を共にしたいというエリーが心底認めたくないであろう父親への愛を表していた。(素晴らしい女優さんだったー…)
映画全体で、緊迫感を促す音楽や画角表情など、見ているこちら側まで伝わる”狂気”の表現が秀逸であったと思う。
おぞましいか、という言葉が何度か出るが、映画全体におぞましさと狂気が在る。白鯨のように大きな体が動く度の悍ましさ、音と表現力。序盤から迫力で圧巻された。
ピザ屋のダン。声だけで彼と関わる。いつも心配してくれ、名前まで伝え合い、チャーリーの日々の心の支えとなり始めたところで、彼の姿を見たダンは嫌悪感で去っていく。人への希望と失望を一気に浴びたチャーリーは狂ったように食べ、吐く。どん底の時、宣教師の若者が、エリーに助けられたと彼の前に現れる。エリーが人を思いやる気持ちがあるとわかった彼は、また少し楽になるのだ。
宣教師の彼は、自分の過去に後ろめたいことがありながらも、どうしていいか分からず宣教師活動をしている。ただ、エリーに心を許した彼が言った本当の言葉を、彼の家族が聞き、家族のもとへと帰ることができたのだ。エリーの行動が彼を救う結果となる。彼の真実の言葉が、彼を救えると感覚で理解し行動したエリー。真実が美徳だと伝える父チェーリーとエリーは、遺伝子がつながった親子であり、魂を分け合ったソウルメイトなのだと心打たれた。
エリーは、彼自身が生きた証であり、自分の人生の最高の作品だと信じている。病院にも決して行かず、生き延びることを認めない彼だったが、死ぬ間際、何度も読み返したあのエッセイをエリー本人の言葉で聴き、死ぬ。彼は最期、自分の人生の全てを認めることができたのだろうか。エリーが、彼女らしく美しいまま生きていけると実感し天へ登ることができただろうか…。そうであると信じたい。