「二律背反の愛の水底に沈む哀しき巨体... 贖罪のために食べ続け泣き続け謝り続けた男が人生の最後に望む絆の映画」ザ・ホエール O次郎(平日はサラリーマン、休日はアマチュア劇団員)さんの映画レビュー(感想・評価)
二律背反の愛の水底に沈む哀しき巨体... 贖罪のために食べ続け泣き続け謝り続けた男が人生の最後に望む絆の映画
十年ほど前に妻子を捨てて同性の恋人との愛に走った中年男性が、自らを罰するかのように陰々滅々とした日々を暮らす中で健康を害し、生涯最後の望みとして一人娘との絆の再生を希求する最期の一週間の物語。
元が同名の舞台劇だったということもあってとあるアパートの一室、登場人物は数人という極私的な世界ですが、それだけに濃密な内省世界が展開され、またダーレン・アロノフスキー監督による官能的で粘液質且つ幻想的な画造りが観ている側を酩酊感に誘う、まさしく深海に潜っているかのような息苦しさと開放感を同時に感じる力作です。
映画評論家の町山智浩さんが本作について"親だって完璧な人間じゃないんだ、というお話"と端的に評されていましたがまさにその通りだと思います。
自分の幼少期の頃を思い出してみると、親が何かに失敗したり負けてしまうことそれ自体は大した問題ではなく、むしろ彼らがそれを認めようとしない姿にこそショックを受けたり悔しい思いをしたのではないでしょうか。
人として真っ当であるということは器用なことではなくて誠実であるということ。それを思えばネバーギブアップなのですが、一方で本作が"取り返しのつかない過ちが有る"を大前提とした物語であるがゆえに観ている側もまさに二律背反の煩悶に迷い込む作品でした。
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