「人は人を救えない、が……」ザ・ホエール Pocarisさんの映画レビュー(感想・評価)
人は人を救えない、が……
ブレンダン・フレイザーの演技はすばらしさは言うまでもなくありません。
ほぼ主人公のアパートの部屋のなかだけで展開します。
ドアの使い方が本当に巧みです。
「救い」がテーマですが、「神」や「これが救いです」という言葉では救われないし、「救い」を標榜する人ほど異質なものを排除して逆に死に追いやったりもする。
ある展開によって救われてしまった人が、それまでの対等な目線で「なんとかその人を理解しよう」とする態度から、一気に上から「救いを与えようとする」冷たい人に変貌するあたりとか、少しでもカルト宗教のくだらなさに触れたことのある人は覚えがあると思いますが、そのへんを鋭く抉っていますね。
そうした、簡単に排除に転ずるカルト的な「救い」観念とは対照的に、この映画での「救い」の鍵はやはり「寄り添うこと」であり、主人公の恋人のようにそれでも救い切ることのできない場合もあるが、寄り添うことで人を少しでも破滅から遠ざけることができるのではないかというのが、少なくとも人間にできるわずかな望みだということを伝えようとしているように思いました。
主人公は、まず娘に対してそれができず、一方で恋人をしばらく死から遠ざけてはいたが、最後に娘に再度寄り添おうとします。
この娘が寄り添いと理解を必要としているのは痛いほどわかります。
悲しかったのはピザ屋さんですね。わずかな心の交流があってそれ自体は素敵なことだったのに……
前作「マザー!」で宗教にすがる人間の身勝手さや醜さを、彼らに振り回される神(の妻)の側から描いた監督ですが、今作も本当の救いは宗教そのものにあるのではないし、間違い、苦しみながらも人と対等に交流することくらいしか希望はないのだと切り込んでいます。
今回はラストがダイビングではなく……そこはこの映画の救いでした。