「全てを失った男が再生する話(いつもの)」ムーンフォール 林檎さんの映画レビュー(感想・評価)
全てを失った男が再生する話(いつもの)
そう。「いつもの」なんだけど面白いんだよなぁ。
家族再生と人類再生の途中の物語です。
なぜ人類再生が途中なのかはこの映画を見たらわかるので置いておいて。とにかくいいのはぶっ飛んでるSF設定がいいです。ただのネイチャーパニックものかと思ったらそうじゃない。めちゃくちゃなSF設定。月の中に入ったら現人類の文明を遥かに凌ぐ超文明の建造物、得体の知れない人類の祖先(の意思?)なんかが出てくるあたりとても好きな世界観でワクワクして見れました。
宇宙パイロットでスペースシャトルの船長にまでなった主人公ブライアン・ハーパーが謎の生命体に出会うことで全てを失うところから物語はスタート。この時点でそうかまた家族とか名誉とか仲間とか、取り戻す流れなんだろうなってわかっちゃう。でもこういうベタな展開が好きな私としては安心して見てられるいい導入で好印象。からのぶっ飛んだSF展開。良かったです。
家族の再生を描いていてそこかしこに確執のある関係性が出てくる。ブライアンとちょっとやさぐれてしまった息子ソニー、そして別れた妻。ブライアンの元同僚ジョー・ファウラーと同じく別れた夫。ソニーと母親の再婚相手の義父トム。KCは確執ということでは無いけどその母親との関係性。
その辺が物語の中できちんと解決していく流れはまとまっていて整理されていていい脚本だなと思いました。
〇好きなシーン。
思い出しながら。順不同です。
・KCが囮になるとハッチを閉めた際のブライアンとのやり取り。
・トムが娘に酸素ボンベを渡して、右、左とほら歩いて、のシーン。
・意思だけになったKCがその母親と話すラストのシーン。
・月が近づくと重力が小さくなってふわりふわりと歩くシーン。
・月の引力を利用して大木を持ち上げ、崩れた橋を大ジャンプで飛び越える。(この辺はSF的にいい見せ方のシーンだなと感じました)
〇ちょっと残念
ただワンシーンだけえーっと思ったのが、ファウラーの元夫で空軍将軍のダグ。核を発射するふたつのキーを二人一緒にラスト回すところで、ジョー(ファウラー)が月にいる、彼女を信じているから、と言って発射を拒否したところ。気持ち的にはわからなくもないけど、一介の軍人が、しかも仲間の銃を奪ってまでの強行。いや、別れてしまったけど本当は信頼している?親心ならぬ脚本家心なのかもしれないけどちょっとやり過ぎかなって印象。別れた妻が月にいる。もしかしたら核を使わなくても済むかも・・・葛藤、悩み、それでも軍人である自分は世界のために、より多くの人を助けるために発射する。そんな芝居を見たかったなぁと。別れた理由が描かれていないからなんとも言えないけど、そういうダグだったから別れたんだとしたら、一人の愛する妻よりも世界のより多くの命のことを考えて行動するダグが見たかった。単純ないい人にならないで欲しかった。ま、発射したミサイルをどうにかしなくちゃいけなくなるけどそこは映画じゃん。脚本で丸く収まるようにどうにかしようよ、と思いました。
〇もう一度見るなら
見終わってちょっと腑に落ちないというか見逃してしまったところとしては、ブライアンが最初の事故で仲間を失ってそのことをずっと悔やんでるって話があって、でも最後にKCが犠牲になると言ってハッチを閉めてしまうところは、ブライアンの「仲間を失いたくない(失わせない)」という信念に似たような感情とどう整理つけたんだっけ?もう一度見るならその辺をきちんと見たいなと思いました。