「危機一髪が不要な「プロフェッショナルスパイ」。」オペレーション・フォーチュン すっかんさんの映画レビュー(感想・評価)
危機一髪が不要な「プロフェッショナルスパイ」。
◯作品全体
スパイ映画といえば、どれだけ凄腕のスパイたちでも危機一髪な窮地に陥ったりミスをしたり、仲間との齟齬や裏切りがあったりと、物語やアクションの転換点として「ほころび」の演出がある。それが最終的に対応可能なほころびであっても、映像演出上は絶体絶命のように映し出し、山場を作り出すのが常だ。
本作では主人公・オーソンを始めとしたチームがプロフェッショナルである、という根底を揺るがさず、それでいて物語を紡いでいるのが印象的だった。
最初のミッションである空港で仲介人を確保するシーンでも、マイクたちに一時的に翻弄されながらも圧倒的なオーソンの対応力とサラやJJのプロフェッショナルの仕事によってつつがなく主導権を取り返す。船上での情報収集もイレギュラー対応はあれど内密にミッションを進めて堂々とその場を後にする。終盤のAIデータの取引シーンにおいても、四面楚歌の状況であるオーソンにJJの視点を入れることで「ほころび」を一切作らない。同業者相手に危害を加える、というリスクを承知しているはずのマイクからオーソン殺害の指示がおりる、本来「危機一髪」の場面すらも、誇張した表現は使わずに、無線を傍受しているJJが1秒程度で完璧に処理する。それぞれのシチュエーションがオーソンたちのプランで正確に想定されているような、プロフェッショナルの華麗さが画面上で展開される。
ではこれでほんとに物語として面白いのか?と問われれば、個人的にはとても面白かった。
そう思えるのはオーソンたちの立ち回りに確固たるプロフェッショナルを感じたからだ。劇中で俳優のダニーをオーソン側に抱き込むが、船上で実力行使して解決するならば余計な手間ではある。ただ、その余計な手間をかけることで終盤までグレッグとの関係を水面下で保つことができる。余計な敵作りと余計に目立つ行動をしないことで自分たちの仕事を円滑に進める…これこそスパイの仕事だろうし、堅実な根回しとその実行はスパイに限らずプロフェッショナルの証左だろう。こうしたところにスパイの、そして本作のかっこよさがあると感じる。
自分たちの仕事を正確にこなし、リスクを回避するためにあらゆる根回しと保険を作り込んでいく…華麗かつ円滑にミッションを進め、危機管理もしっかりこなすこの作品は、スパイ映画ではなく「プロフェッショナルスパイ映画」だ…とジャンルを細分化して語りたくなるような、そんな映画だった。
◯カメラワーク
・人物との距離がほとんど一定のカメラワークだった。イレギュラーを作らない、安定して仕事をこなす、といったような印象を受ける。だからか、逆に主観視点とかは野暮に感じてしまった。終盤のシーンでオーソンの主観で銃のスコープ越しに敵を捉えて撃つ、みたいな演出とか、やけにFPSゲームっぽい感じがしてチープにみえた。
◯その他
・オーソンたちとマイクたちの関係性にプロフェッショナル感があってすごく好きだった。同業者を相手にしてもなにも意味がない。相手にするときは最終手段…みたいな距離感。作中で「マイクはやりすぎる」的なセリフが何回かでてくるけど、それでもオーソンたちに襲いかかってくるのはホントに最後だったし、マイクたちもプロフェッショナル側なんだよな、と。オーソンに殺害命令が降りる前、オーソンがマイクの部下に「銃を向けるな」って言って怒るところがすごく好き。絶対に撃たないし撃てないっていうのがわかっているから遠慮なく怒る「同業者同士のわかってるやりとり」みたいな。序盤でオーソンたちが乗った車をマイクが穴を開けて、速やかにハードディスクを渡すところも同じ理由で好き。
・ダニーの扱いが「スパイ映画」と「プロフェッショナルスパイ映画」を分ける気がする。前者だったら裏の世界の素人であるダニーをもっと物語に絡ませて、素人が作ったエラーを起点に物語を動かすんだと思う。例えば『007シリーズ』だとボンドガールがその役割を担ってたり、最近のだと『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング』のグレースとかまさしく。本作だとヘリの操作がプロらしからぬオーソンを映した後、運転のプロとしてダニーを映していて、キチンとプロの一人として描いていたのが面白かった。
・「雨にぬれても」を歌うシーンはちょっと唐突すぎてイマイチだった。
原題「Ruse de guerre」が示す通り、中間管理職的立ち位置のボス・オーソン・フォーチュンの「戦略」展開を楽しむのが醍醐味の一つですものね。
プロフェッショナルが考案・実行していく戦略の華麗さ、私もとても面白かったです。
レビュー、深く共感致します。