「青いカブトムシは長生き出来るか…?」ブルービートル 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
青いカブトムシは長生き出来るか…?
スーパーヒーロー映画の人気に陰りが見え始めた2023年。
絶対王者だったマーベルも『マーベルズ』で初めてコケ、DCに至っては公開された4本がことごとく不発。
遂にはこのニューヒーローは、日本では劇場未公開…。
しかしこちら、シンプルに面白かったぞ。
ブルービートル。
見た目は青い俺ちゃんヒーローみたいだが、昆虫モチーフは“親愛なる隣人”みたい。
スーツは超万能ハイテク。身体能力がアップ、高い防御力、刀や背中から付き出した触手など武器を備え、シールドはバスをも真っ二つ。必殺技のエネルギーブラストは何でも吹き飛ばす。羽で空や宇宙空間も飛行可能。空を飛ぶ事が出来る超ハイテクアーマースーツ、“声”とのやり取りなど、ライバル社の鋼鉄ヒーローに匹敵。
このスーツは何処から…?
パワーの源は、“スカラベ”。
人間が作ったものではなく、エイリアンのバイオ・テクノロジーで作られた古代の遺物。人類を滅亡させるほどの恐るべき力を秘めている…。
それを我が物にしようといつもながら愚かさと欲深いのが、人間。
雪深い地に落ちた謎の球体からスカラベを発掘中の“コード社”。
前CEO亡き後、新たなCEOとなったヴィクトリアは、スカラベで兵器開発を目論む。
人智を越えた未知のテクノロジーで兵器など作ったら…。
前CEOの娘、ジェニーは反対。コード本社に保管されているスカラベを盗む。
追っ手を振り切る為、偶然ある人物にスカラベを託す。
託されたのが…
ハイメ・レイエス。
大学を卒業し、就職の為、家族が暮らす米テキサス・エルパソに戻ったばかりのメキシコ系アメリカ人青年。
妹とバイトへ。それがコード社の清掃などの雑用。
そこで偶々コード家の内輪揉めに巻き込まれ、スカラベを託され…。
ハイメは“それ”が何だか知らない。
箱に入れられ、ジェニーから“絶対に開けないで”。
寧ろ彼の関心は美人のジェニーに…。(ブラジルで人気の女優兼モデルのブルーナ・マルケジーニが超美人! ネイマール選手の元恋人らしい)
ところが、家族が勝手に箱を開けてしまう。中にあったのは、虫…? メカ…?
そしたらそれが突然、ハイメに寄生。ギャーッ!エイリアン!?
身体が変貌。ギャーッ!ホラー映画!?(ちなみに変身シーンは80年代ホラーやデヴィッド・クローネンバーグやジョン・カーペンターの作品へオマージュ)
あ~んな事やこ~んな事や変身解けたらスッポンポンになっちゃって、何じゃこりゃ~!?
DCEU17作目となる本作。
しかし、他のDCEU作品とリンクはほとんどナシ。強いて言えば台詞上にバットマンやスーパーマンの名が出てきたり、ハイメが卒業した大学がゴッサム法科大であったりする程度。
リンクを期待していた人には物足りないかもしれないが、DCEU初心者でも単体ヒーロー物としてすんなり見れる。私もDCEU作品で何の予備知識ナシで見れたのは『シャザム!』1作目以来。
コミックでハイメは3代目らしい。
劇中で初代や2代目への言及、ジェニーの父の関わり、秘密基地やそれぞれのスーツ…。これらファンには堪らないのであろう。
監督の新鋭アンヘル・マヌエル・ソトも原作の大ファンらしく、そのこだわり。
VFXを駆使した迫力のバトルを織り交ぜ、上々のエンターテイメントに仕上げている。
DC初のラテン系ヒーロー。
このカラッとしたラテンのノリが痛快。
アクション・シーンにもノリノリの音楽、少々ベタだがユーモアたっぷり。
ハイメも好青年で、基本明るい。演じたショロ・マリデュエニャはNetflixの配信ドラマ『コブラ会』で注目され、更なるブレイクなるか…?
スーツは誰もが装着出来る訳ではない。
スカラベに選ばれた者のみ。
宿主が死ぬまで。つまり、宿主を一生守るようでもあり、生きている限りずっとこの力と向き合わなければならない。
当然ながら疑問が沸く。何故、自分が選ばれた…?
未知なる力を手に入れた者の宿命。大いなる力には大いなる責任が伴う。
そんな彼を襲う危機…。
スカラベを執拗に狙うヴィクトリア。手段は厭わない。
代役らしいが(当初はシャロン・ストーン)、スーザン・サランドンがヒーロー映画の悪役とは驚き! さすがはオスカー名優、憎々しさ満点。
ヴィクトリアの魔の手は、ハイメや家族にも…。
ハイメは愛する家族を守る事が出来るか…?
ジェニーとの仄かなロマンスも描かれるが、ドラマのメインとなるのがハイメとその家族の絆と愛。
父、母、妹、叔父、おばあちゃんのとにかく陽気な家族。
あまりにも陽気過ぎて、ハイメも時々たじたじ、うんざり…。
でも、何より大事。ハイメの家族への愛。家族のハイメへの愛。
日本人とは違うラテンの家族の濃い血と繋がり。
ハイメが単純に家族を守り、助けるだけじゃない。
家族のピンチを救おうと一瞬隙を見せたハイメが捕まる。
家族はジェニーと共に助けに向かう。
パワフルなレイエス・ファミリー! 特に、おばあちゃん。ドデカイ機関銃をブッ放すおばあちゃんの過去には何が…? 演じるのは『バベル』でオスカーノミネートのアドリアナ・バラザ。
守り、守られ、奮い立たせる。
母親の“あいつらをぶっ飛ばしてやりな!”。
一度パワーを失ったハイメだったが、守りたいものがあって覚醒する…!
恐ろしい殺傷能力を持つスーツ。
が、ハイメは人の命を奪わない。が…。
危機の中、家族に犠牲が…。父が死ぬ。
憎しみ悲しみ怒りに囚われ、スーツが暴走し制御不能になるハイメ。
それは敵も同じだった。ヴィクトリアのボディガードで、ハイメと同じくアーマースーツ=OMACを装着するイグナシオ。
幾度となくハイメの前に立ち塞がり、アーマースーツ同士のバトルを繰り広げるが、最後追い詰めた時、スーツを通して彼の過去を見る。
幼いイグナシオの悲劇的な過去…。殺された母、紛争、ヴィクトリアに利用され、改造され…。
彼もまた家族に纏わる悲しい過去を持つ。
それを知った時、コワモテのこの敵がまさか胸打つ終盤をさらっていってしまうとは…!
本当に本作の要は、家族だ。
ニューヒーロー誕生物語。
アクション、ユーモア、青年の成長、家族との絆、ロマンスや感動交え、先述のヒーローたちのいいとこ取り。
その一方、先述のヒーローたちより特筆したものには欠け、良くも悪くも典型的でもある。作品的にも。
でも、ハイメは普通の青年だ。家族との絆も普遍的だ。
その平凡さ…いや、シンプルさが作品にぴったり。
ズバリ、THE王道。
ご存知のようにDCはジェームズ・ガン新体制の下、“DCEU”から“DCU”へ。
多くが企画中止やまたリセットされる中、このブルービートルは数少ない続投組。
どういう形で絡んでくるのか、それとも続編が作られるのかまだ分からないが、DCEU終盤になって登場したこのニューヒーロー、カブトムシが1シーズンしか生きられないように、短命で終わって欲しくない。