「真っ平ご免! 力強く歌い上げ、色付く人生を」カラーパープル 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
真っ平ご免! 力強く歌い上げ、色付く人生を
“お子様ランチ”ばかり撮ってきたスピルバーグ初のシリアス作品であり、ウーピー・ゴールドバーグの映画デビュー作。
ピュリッツァー賞に輝く同名小説を基に、一人の黒人女性の壮絶な半生。
スピルバーグ版は昔に見た事あり。アカデミー賞10部門11ノミネートされるも受賞ゼロばかり取り上げられるが、力作である事に違いはない。
そんなシリアス力作を、ミュージカル映画化。
小説→映画化→ブロードウェイでミュージカル化→ミュージカル映画化。昨今珍しくない流れ。
オリジナルの監督スピルバーグとキャストのオプラ・ウィンフリーと音楽のクインシー・ジョーンズがプロデュースで参加。ウーピーも冒頭特別出演。
強力バックアップ、新たなスタッフ/キャストと新たな魅力を持って、歌い上げる。
1900年代初め。ジョージア州の田舎町。
優しい母を亡くしたセリーとネティの姉妹は横暴な父の下で堪え忍びながら支え合って暮らしていた。
父からの性的虐待でセリーは身籠り出産するも、子供は売り飛ばされる。子供の名を記した織物と共に。
ある時“ミスター”と呼ばれる農場経営男が、ネティを嫁に欲しいとやって来る。
頭が良く、美人のネティを嫁にやるのを断る父だったが、代わりにセリーをくれてやる。
横暴な父の下から解放されたセリーだったが、ミスターも同じだった。
望まぬ結婚。そこに愛など全く無い。
前妻との間の子供たちの世話。来る日も来る日も家事に労働にこき使われる。
奴隷と変わりない。初日から暴力も…。
そんなある日、姉が居なくなり手を出してきた父から逃げるように、ネティが転がり込んでくる。
また姉妹一緒に居られる事を喜ぶが、迫ってきたミスターを拒んだ事で、ネティは追い出される。
また独り…。ネティは手紙を出すも、郵便物はミスターが管理。唯一の愛する肉親からも完全に引き離され…。
序盤は見ていてとにかく辛い。
男尊女卑、人種差別、父親からの性的虐待、無理矢理結婚させられ相手も暴力、奴隷同然…。
“物語(フィクション)”として描かれるくらい。当時の黒人女性の境遇。劇中のミスターの蔑みで言うなら、“醜いゴキブリ”。
そんなセリーの人生が、様々な出会いによって色付き、変わり始める…。
ミスターと前妻の息子ハーポの妻、ソフィア。
この時代の黒人女性に於いて、メチャパワフル!
男に屈しない。ミスターにも堂々物言う。ハーポを尻に敷く。
夫に虐げられるセリーにとっては衝撃でもあるだろう。
よくよく考えれば姑と嫁なのだが、孤独なセリーにとって心強い友人に。
演じたダニエル・ブルックスはブロードウェイ版から同役。トニー賞も受賞。
オリジナルのようにオスカー期待されながらも、作品はことごとくノミネート落選。楽曲も。唯一ノミネート(助演女優)されたのがブルックス。それも納得の存在感。
ミスターの前妻、シュグ。
各地を回る人気の歌姫。ハーポが建てた酒場で歌う為に招待され、久し振りに帰ってくる。
彼女もまた。男に屈しない。散々わがままを言い、ミスターをこき使うほど。
自由奔放な性格と生き方。
彼女もソフィアと同じく、この時代の黒人女性に於いて自分を貫く。
フレッシュなキャストの中で比較的実績と実力あるタラジ・P・ヘンソンが好助演。
こんな生き方もあるんだ…。
だけど、私は…。
勇気付けられる。奮い立たせられる。
立ち向かって。闘って。
その思いを燻らせず胸に秘めたまま、それでもミスターに従う。
堪え忍んで、堪え忍んで、堪え忍んで、堪え忍んで、堪え忍んで、歳月が流れ…。
遂に立ち向かい、闘う時が…。
妹から送られていたたくさんの手紙を発見する。
妹は遠く離れた地で、生きていた。しかも、セリーの生き別れの子供たちと一緒に。別れ際送った織物が繋げた。
今も姉を思っている。愛している。
私だってそう。今も妹を思っている。愛している。ずっと変わらず。
そんな妹を、私から引き離した。夫は。
いや、夫などではない。馬のクソ男。
もう真っ平ご免!
遂に反発。オリジナルでも印象的な屈指の名シーンは、勿論本作でも。
私を虐げる限り、あなたに不幸が訪れる。
力強くミスターに言い放ち、セリーはシュグともう誰にも縛られない自由な生き方と自分を。
ダニエル・ブルックスと同じくブロードウェイ版から同役のファンタジア・パリノが体現。
黒人女性たちの力強さ、ユーモア、抗い自分で選んだ自由な生き方、胸に秘めた熱い思い、不屈の精神…。
それらを歌い上げるミュージカル楽曲の数々が素晴らしい。
まだ一緒に暮らしていた時のセリーとネティのデュエット曲、ソフィアのパワフルさを表す曲、セリーとシュグのファンタスティックなデュエット曲、セリーが自由を決めた曲…。
他にも魅力的な楽曲が彩る。
俊英ブリッツ・バザウーレがドラマチックにエモーショナルに新たに歌い上げた。
逆境に挫けず、諦めなければ、いつか必ず報われる。救われる。
そうなったのは運命とかではなく、自分自身。
ある時ソフィアを襲った人種差別の魔手。さすがのソフィアもどん底に叩き落とされる。
そんな彼女を勇気付けたセリーの優しさ。
セリーが去った後、ミスターには不幸続く。農場は害虫被害で焼き払う事になり、飲んだくれ、落ちぶれ…。
ミスターも本当だったらシュグのバンドで華やかな人生を送っていたかもしれない。父親の農場を継ぐ事になり、泥土まみれの人生…。横暴さはその鬱憤かもしれない。
落ちぶれた姿を見て、初めてミスターを憐れに思った。
そんな彼がある行動を…。ラストの感動の“再会”の為に尽力。
ずっと嫌な奴だったのに、最後の最後になって、ミスター、泣かせる事しやがって! 好調コールマン・ドミンゴが魅せる。
罪を悔い改める。
そしてそれを赦す。
セリーが信じる“神の神業”と言ってしまえば宗教色で日本人にはピンと来ないかもしれないが、つぐないややり直しや赦しは万国共通。
あらゆる出来事や思いが集って、繋がって…。
素直に心温かなハッピーエンド。
灰色から紫へ、カラフルに。
私の色。あなたの色。
色付く人生を。
近大さんのレビューとっても素晴らしいですね。
私のレビューが恥ずかしいくらいですが共感ありがとうございました。
観てるのが辛い前半でしたが、心あったまるラストで良い作品でしたね。