「ウォンカの魔法のチョコを食べれば、夢を見る事、諦めない事を教えてくれる」ウォンカとチョコレート工場のはじまり 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
ウォンカの魔法のチョコを食べれば、夢を見る事、諦めない事を教えてくれる
ロアルド・ダールの名作児童小説3度目の映画化…ではなく、
あくまでベースに、ウィリー・ウォンカの“若き日”をオリジナル・ストーリーで描く。
昨今十八番の“前日譚(プリクエル)”。
あのチョコレート工場がどう創られたのか謎。
ウォンカにも我々の知らない秘密がいっぱいありそう。
『チャーリーとチョコレート工場』でも少しだけウォンカの過去に触れられていたが、予習で見ておく必要は全くナシ。
歯科医の父親との確執やウンパルンパとの出会いなど、全くの別口。あちらはあちらのオリジナル、こちらはこちらのオリジナル。自由に物語を創造。
今でも日本ではハリウッドスター=ジョニデ。だからジョニデで見たかった…なんてバカげた声も聞こえてきそうだが、若き日云々以前に人気落ち目のジョニデの起用なんてあり得ない。
今旬のフレッシュスターが必要。
それにぴったりの人材が、いた。
開幕。船の帆の上で歌って登場。
世はまさに“ティモシー・シャラメ時代”であると共に、これは“ティモシー・シャラメ映画”であるとも告げているかのよう。
人を食ったようなジーン・ワイルダーのウォンカやエキセントリックなジョニデのウォンカとはまた違う。
ティモシー本人の人柄を反映してか、ピュアな好青年。でもやっぱりウォンカは少々変人。浮世離れも加味。
抜群のルックス、ユーモア、ナチュラルさ、高い演技力、さらに歌って踊って、ティモシーの魅力いっぱい!
唯一無二の彼だけのウォンカ像を創り上げた。
若きウォンカはすでに不思議な魔法のチョコ職人。
世界でも屈指のチョコ職人が集まるチョコの町へ。
世界一のチョコ職人になり、そこでチョコの店を出す。チョコ作りを教えてくれた亡き母との約束…。
ウォンカの魔法のチョコは瞬く間に大評判に。それを良しとしないのが、町を牛耳る“チョコ組合”。
文無しのウォンカは騙されて、一生働き詰めの宿屋へ。
そこでウォンカは、自分と同じく騙されこき使われる人たちと一人の少女ヌードルと出会う…。
前2作でも裕福だが生意気な子供たちや貧乏ながらもピュアな子供が主軸になっていたが、今回はさらに格差の構図をはっきりと。
あらゆる妨害をする“チョコ組合”の三人の傲慢さは相当なもの。その腰巾着の警察署長や神父(ローワン・アトキンソン珍演)など、権力者たちを徹底的に皮肉る。
宿屋の女主人(オリヴィア・コールマンのインパクト)とそのパートナーの旨い話にはご注意。よく契約書を読んで!
騙され、夢破れ、どん底で働き詰め…。
しかし、出会いが各々の運命を変える。
転んでもただでは起きないウォンカ。
ヒロインの位置付けのヌードル。意外な出生の秘密が…。
同じ境遇の面々も単なる端役ではなく、“仲間”として活躍を見せる。
そうそう、忘れちゃいけないウンパルンパ。
今回、ウォンカとちょっと因縁ありの設定。
緑髪&オレンジ肌は『夢のチョコレート工場』オマージュかな。
前2作では実際に小人が演じたウンパルンパを今回ヒュー・グラントが演じた事に対して一部批判的な声も出たそうだが、でも見れば気に入る事間違いナシ。
無口だったウンパルンパだが、今回はヒューに合わせてかよく喋り、コミカルさや小さいながらもその存在感は、さすがヒュー。
映画化される毎に特色ある“チョコレート工場”。今回も。
所々ミュージカルだった『夢のチョコレート工場』。今回はもっともっと。思ってた以上のミュージカル映画に。全13曲の魅力的なオリジナル・ナンバーが彩る。
ファンタジーだった『チャーリーとチョコレート工場』。今回はファンタジーと言うより、もっとファンタスティック! ウォンカとヌードルがデュエットしながら巨大風船で町の空を飛ぶシーンなんて美しい。
現実的なシニカルさをまぶしながらも、ミュージカル・テイストとファンタスティックさがより打ち出され、それでもこの世界観にぴったりと合う。さながら、様々な材料を合わせた魔法のチョコそのもの!
『ハリー・ポッター』と『パディントン』のクリエイターたちだもん。そりゃあ美味だわ。
美術や衣装も魅力。
特に、遂にオープンした念願のチョコの店。
その内装は…、“チョコレート工場”の原型。
しかし、またしても妨害が…。いやもう、れっきとした犯罪レベル!
この町は夢を見てはいけない町。
だから諦めるのか…?
だからこそ夢を見るのだ。そしてそれを実現するのだ、自分の手で。
夢を見てはいけない町で教えてくれる。
夢を持つ事の尊さを、それを決して諦めてはいけない事を。
原題は『ウォンカ』。
邦題はそれに“チョコレート工場のはじまり”を付け足し。
それを見たかった人にはちょっと期待外れかも。チョコレート工場が如何に創られたかと言うより、ウォンカの若き日の珍騒動。
“エピソード0”と言うより“エピソード0.5”。すでにウォンカは腕のいいチョコ職人で、材料はどうやって手に入れ、如何にして魔法のチョコを創り出したのか…?
そんな更なるプリクエルも作れそう。題して、“ウォンカと魔法のチョコの出会い”。
この冬飛びっきりのスター映画であり、魅力的なミュージカル・ファンタジー。
その味を是非ご堪能あれ!
はじまりの工場は…
苦さありつつも、後味は夢とハッピーいっぱい!