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「こゝではナチスドイツよりもロシア軍が嫌われている」野蛮人として歴史に名を残しても構わない ゑぎさんの映画レビュー(感想・評価)
こゝではナチスドイツよりもロシア軍が嫌われている
タイトルは、第二次大戦中のルーマニア軍最高指導者アントネスクの言葉、ということだ。本作は、ルーマニア軍がユダヤ人を大虐殺した1941年の「オデッサの虐殺」を題材にし、大規模なショーを準備する女性演出家を描いた映画。自治体の公費支援の関係もあり、様々な反対意見や横やりが入る。しかし、主人公はあくまでも「歴史への直面」をテーマに、彼女が考える真実を描こうとする。と書くと、お堅い真面目な映画かと思われるが、監督が『アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノ』のラドゥ・ジューデなので、人を食ったようなユーモアのあるシーンも多い。主人公が街を歩く長回しもあるし、首を吊られる男たちの写真(ルーマニア軍に処刑されたユダヤ人の写真だと思う)を延々と映しただけのショットだとかもある。また、ショーのリハーサル場面と共に、主人公のプライベート、自宅での愛人との場面が挿入され、彼女の全裸のショットが何度もある。また、男は陰部も見える。
モヴィラという名前の、自治体側のプロデューサー的立場の男(だと思う)が何度かリハーサル現場に訪れ、主人公と議論を繰り返す、この二人の関係も面白い。主人公は、ルーマニアは被害者でなく執行人、ナチスドイツの次にユダヤ人を多く虐殺していると云う。モヴィラは、そんなことは、ドレスデンでも広島でも起こっている、長崎は2番目だから忘れ去られているが、と返す。「ナガサキモナムール」ならダサすぎる。という科白があり二人して笑うのは、映画ファンだな、と思うと同時に、日本人としては複雑な心境になる。
広場(市庁舎前?)で演じられるショーのタイトルは「国民の創生」だ。白いユニフォームのバンド演奏にあわせて、ナチスドイツ軍、ロシア軍、ルーマニア軍の順番で入場行進が演じられるのだが、ロシア軍入場で、見物人達から、凄いヤジが飛ぶ。こゝではナチスドイツよりもロシア軍が嫌われているのだ。この後、銃撃戦シーンや首を吊られる人形、小屋の中に詰め込まれるユダヤ人たちが描かれ、窓から火が投下される。美しく燃える建物のショット。「アントネスクは人殺しだ!」と叫ぶ観客もいるが、「ユダヤ人が燃える場面で観客が拍手をした」と主人公の演出家は嘆く。しかし、このショー本番の場面は、予想以上に迫力がある。また、本番を見守る主人公は、リハーサルやプライベートの場面よりも、美しく撮られている。