「Goodbye, Jane.」帰らない日曜日 talismanさんの映画レビュー(感想・評価)
Goodbye, Jane.
この言葉を笑顔で言うポールに気持ちがさらわれました。彼はジェーンにもう会わないと決めてる。
ポールのちょっとはにかんだような笑顔がイギリスのいいところのボンボンで可愛いなあと思いました。仲良かった兄二人を戦争で失った。幼なじみも戦死した。別の上流家庭のお嬢さんと結婚することに決まっているポール。誰も当事者の気持ちを尋ねないし当事者自身も何も言わない、夫婦間でもコミュニケーション不全の時代。言葉少なく表情と眼差しで演技するコリン・ファース素晴らしい。
イギリスの美学、やせ我慢。一方でプラグマティックなイギリス:彼女が妊娠しないようにする、自転車をガンガン乗りまわすメイド達。
ポールは家族勢揃いの屋外ランチに法律の勉強を言い訳に遅刻して行く。ジェーンと愛し合ったあと、裸状態から服を着ていくのを裸のジェーンが寝そべって眺めている場面がいい。ポールが下着、服を身に付けていく順番はジェーンの頭にきっちり刻まれる。その前、ポールが法律でなくてジェーンをstudyするシーンもいい。まずひざまずいて彼女の靴をぬがすところから始まる。すべてが丁寧でゆっくり。
寒くて嵐や雨が多くて曇天が多いイギリスで唯一美しい季節は4月から6月だと読んだことがある。その4月が始まる直前の3月30日に"Goodbye, Jane."と告げたポールはジェーンに最高のギフトを渡した。彼女に何でも言えたポール。家族が戻るのは4時だからゆっくりと過ごしていって、片付けはしなくていいから、お腹がすいたらキッチンにあるから食べてねと言って。その思いはニヴン家の妻(オリビア・コールマン、適役)の思いにも重なっていた。持てる者は絶望し美にとどまり、持たざる者は希望と猥雑の世界へ。
よりによってPaulの"p"が打てなくなっていた中古のタイプライターから始まった彼女の作家人生は、馬の4本目の脚は「私ね、ポール」と最後に言えたことできれいに輪が閉じた。
衣装、インテリア、先祖の肖像画、イギリス的壁紙、白いベッドリネン、鏡と電話の役割。革表紙の本が壁を埋め尽くす図書室。外に出れば美しい緑と日の光と水。映像も音楽も極上でした。吉田健一がこの映画を見たら原作を読んだら何て言っただろう。イアン・マキューアン原作の映画『つぐない』も思い出した。
おまけ
ジェーンのような孤児院育ちの子の姓がフェアチャイルドというのにはズシンと来た。イタリアでも姓が、神とか子どもの幸せを願うような意味のものだと祖先が捨て子で拾ってくれた教会などで名付けられたからと聞いたことがある。ポールは兄達や幼なじみとの楽しい子ども時代、馬のことなど本当に楽しそうに話していた。互いに色んなことを話せた二人だったんだ。この映画、本当にあとをひきます。英国でのノブレス・オブリージュ強化はネルソン提督から?素敵でかっこよくもあるが悲しい。親からしたら堪らない。
コメントありがとうございます。
(シラノにもありがとうございます)
「愛人/ラマン」はベストセラーでしたね。
古本市に積み重なっていました、文庫が。
この映画はtalismanさんがお書きのようにポールに寄せて観る映画なのですね。原作者が男性ですし、賞を受賞した老作家になったジェーンは
ガッカリするばかりでした。
ポールの死は自分だけ生き残った悔恨とジェーンへの想いやらで、
死を選んだのかも知れませんね。
お話をして行くうちに少し深いところまで分かったきがします。
先に共感いただいてすみません。
ゆっくり皆さんのを読んでからと、のるびりしていました。
talismanさまのレビュー、素晴らしいです。
心に沁みます。
こうしてこの映画「帰らない日曜日」を解説して紐解いて頂くと、
この映画の本来の見所と美しさに改めて気付きました。
偉そうなことを書いたわたしが恥ずかしくなりました。
本当にポールは優しい男性でしたね。
ジェーンと過ごした時間が甘美過ぎて、死に急いだのかも知れませんね
ありがとうございました。。
tails man様
逆に気を遣わせ申し訳ありません。私のレビューに瑕疵があったんですよ。東宝を揶揄した所か、セック◯て言った所か、やんごとなき・・・と言った所か・・・
前にもあったんで・・・
コメントありがとうございました。
他の方も指摘されているように
Paulの"p"が打てなくなってた
に気づかれた反応の良さ、すごく羨ましいです。
あと、としを重ねても男女によって感じ方、感情移入の仕方は違うかもしれませんね。参考になりました。
「さよなら、ベルリン」もぜひ見たいと思いました!
リヒター展は予約優先入場となってます。
当日空きがあれば、窓口でチケット販売するそうです。
まだ今なら混まないと思いますが、評判が上がってくると、並ばないと入場できなくなるかも。
若者たちのクチコミ次第でしょうか。
「LION」にコメントありがとうございます。
リヒター展はもう予約済です。行く気やる気120%(笑)です。
近美が力いっぱい構成してると思うので、濃い内容じゃないかと、楽しみです。その分、チケット代が高いですが。とうとう2,200円ですよ…。でも、全然惜しくない!
リヒターでおなかいっぱい、かなり疲れるはずですが、あわよくばその後に「日曜日」…は無理かなぁ。
お久しぶりです。「覇王別姫」が映画館で上映されて、速攻で行かれてましたね(笑)。楽しまれたようで、何よりです。
この映画も観たいのですが、千葉にも来ないかなー。公開情報を知って、すぐさま原作を読んだくらい、前のめりだったのです。配信かな…。
今晩は。
talismanさん!”吉田健一がこの映画を見たら原作を読んだら何て言っただろう。”
吉田健一、お好きなんですね!私、世代が合わないですが同じ酒飲み&英国好きにより、好きな作家なんです。
ほぼ全作を読んでいるはずですが、あの独特な句読点少なき文章は好きなんですね。(ちょっと酔っ払った感じも好きです。)では。