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「押井フェチズム大爆発」血ぃともだち 因果さんの映画レビュー(感想・評価)
押井フェチズム大爆発
押井守による2019年のテレビアニメ『ぶらどらぶ』を本人がそのまま実写でやってみました、的なノリの一作。『ぶらどらぶ』同様、氏のフェチズムが前面に押し出されている。
押井は仕事がない時期に1年で1000本もの映画を観ていたというほどの映画狂だが、中でも気に入っていたのはB級ホラー。もっと言えばドラキュラ映画。F・W・ムルナウ『吸血鬼ノスフェラトゥ』やらベラ・ルゴシやらについて延々と熱弁を振るっていたことを思い出す。
『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』『GHOST IN THE SHELL』『起動警察パトレイバー the Movie』など、既存作品を挑発的に脱構築することによって作家的キャリアを築き上げてきた押井だったが、それも今は昔。余生というボーナスステージに至り、いよいよオリジナルな土壌で自分自身の趣味を好き勝手開陳する暴挙に出始めた。誰も彼を止められない。
歯を皮膚に突き立て、相手の血液を摂取するという物理的侵犯行為は性行為のアナロジーといえる。事実、劇中では幾度となく吸血鬼のマイが友人たちの血を吸いかけるシーンがある。にもかかわらず、それらは全て注意深く回避される。
この偏執的なまでの回避主義が「永遠にゴールに辿り着かない精神的不能」を美徳とする萌えアニメの文脈と相俟って、作品の「萌え」強度を飛躍的に向上させている。
オリジナル作品とはいえ他作品からのオマージュやパロディが多いのは相変わらず。自転車で校舎内を駆け回るシーンなどはゴダールや鈴木清順の外連味を彷彿とさせるし、実写とCGのコテコテな合成感は大林宣彦や中島哲也のDNAを感じる。
とはいえ『ぶらどらぶ』という設定がほとんど丸被りしている作品があるというのにわざわざその実写版を作る意義は薄い。それもこれも全て「俺のフェチズムだ」と開き直られればそれまでなんだけども…