「土とともに生き、やがては土に還る。時代の波に翻弄されながらも貧しい農村で健気に慎ましく生きた夫婦の物語。」小さき麦の花 レントさんの映画レビュー(感想・評価)
土とともに生き、やがては土に還る。時代の波に翻弄されながらも貧しい農村で健気に慎ましく生きた夫婦の物語。
養親の下で育ったヨウティエは結婚も出来ず家族から疎まれていたが、軽い知的障害を持った同じく家族のお荷物だったクイインと結婚することになる。
ヨウティエは失禁を繰り返すクイインをまったく責めることなく、彼女に優しく接する。そんなヨウティエにクイインも徐々に心を開き二人は本当の夫婦となってゆく。
時代は中国が資本主義に舵を切りだしたころ。都心部と農村部の貧富の差が如実にあらわれだした時代。都会では高級外車が走る中でヨウティエのロバの荷車みたいなものも混在する。
抽選で当たったマンションの部屋からはヨウティエが暮らす農村部が見下ろせる。ヨウティエは言う、農民が街に出てどうやって暮らしていけようか。高級な部屋であってもここではロバも鶏も飼えない。土と共に生きる彼はコンクリートの家では暮らせないのだ。
貧しくも勤勉でつつましく生きる二人。自分たちの家を持たず空き家を借りての生活だが、国の政策で空き家は次々と取り壊される。そのため農作業をしながら自分の家を建てる作業も加わり生活は決して楽ではなかった。朝から晩まで働いてもけして裕福にはなれない暮らし。だが、そんな生活でも二人は幸せだった。
空き家を転々とする二人はまるで巣を追われる燕のよう。だが、大きな流れに対しては抗いようもない。彼らはそれに対して不満も愚痴も漏らさない。
いくら働いても楽にはならない暮らしに対しても同様だった。ただ従順に荷車を引くロバのように。
しかし、愛する妻を失ったヨウティエは長年共にしたロバを解放する。もうこき使われることはないのだと。まるでそれは自分自身に重ねているかのようだった。
空き家となり取り壊されるかつて二人が暮らした家。全てを売り払ったヨウティエの姿はそこにはもうなかった。はたしてヨウティエはヤンが言うように都会に移り住んだのだろうか。あるいは。それを知る由もない。
貧しい農村で健気に生きた二人の夫婦の姿はもうどこにもない。願わくば腕につけた麦の花を目印にいつか二人が再会することを願うばかりである。