劇場公開日 2024年12月13日

「太陽が生む食とエネルギー」太陽と桃の歌 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0太陽が生む食とエネルギー

2024年12月13日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

スペインはカタルーニャ地方の桃農家のお話でした。親子3代に渡って桃を作り続ける一家でしたが、この土地にソーラーパネルを設置して収益性を高めたいらしい地主から土地の返還を迫られる中、一家に生まれた不協和音に焦点を当てていました。遠いヨーロッパの農村のお話ではあるものの、ソーラーパネルが国土を”破壊”しつつある事情は日本と同様で、その点が非常に興味深いお話でした。

ただ農業従事者の平均年齢が68歳と高齢化社会の最先端を行く日本の農村部の風景と異なり、本作の主人公一家は孫世代まで子だくさんで、その点は”明るい農村”の風景で、ある意味羨ましく感じたところでした。

本作を観て思ったのは、まずは邦題の秀逸さ。原題の「Alcarras」は、本作の舞台となった街の名前のようですが、邦題の「太陽と桃の歌」というのはまさに言い得て妙。本作の主題は”太陽の力”であり、従来は桃の生産を支えていた訳ですが、今後はソーラーパネルによる発電を支えることになる訳です。この大転換に際して、人々はどう対応すればいいのかがテーマの作品でした。

初代である祖父・キメットはギャンブルで土地を得ようとし、その息子・ロヘリオをその状況を受け入れられず、孫・ロジェーは大麻栽培を始めるなど、人それぞれ。太陽光発電の管理人として雇うという地主の申し出を受け入れるべきだという考えもあり、結局その不協和音がまとまらないままに桃の木は切り取られてエンディングを迎えるこのモヤモヤ感は、まさに現実世界とリンクするものでした。

因みにスペインの食料自給率は90%以上だそうで、40%を切る日本と比べると比較的高い数値になっています。スペインのエネルギー自給率は20%程度と、10%程度しかない日本同様低いため、農地を削ってエネルギーを得るという政策は、マクロ的には一定の説明がつくように思います。ただ日本の場合、食料自給率もエネルギー自給率も非常に低いため、双方の水準を引き上げて行かなければいけない状況であり、問題はスペイン以上に深刻なんだなあと、本作を観て改めて愕然としたところでした。

最後は映画と関係のない話になってしまいましたが、急速な環境変化が人間社会に不協和音を生むことを再認識させてくれた本作の評価は★4.2とします。

鶏