「「対話」で向き合おうとしてくる映画」カモン カモン ともさんの映画レビュー(感想・評価)
「対話」で向き合おうとしてくる映画
2022.36本目
音楽がない。色彩がない。ドキドキさせる演出もない。わくわくさせる超展開もない。
それでも、「あぁいい映画だった」「いい時間だった」と思えたのは、この映画がとことん「人と人との対話」を大切にしているからだと思う。
インタビュー(対話)ではじまりインタビュー(対話)で終わる。一貫されたテーマ。
むしろ、音楽がなくモノクロなことでより言葉にフォーカスがしぼられて効果的だった。
エンターテイメントや娯楽目的だけで映画を楽しもうとしている人にはあまり向かないかもしれない。
けど、より広くこの映画が好まれると嬉しいなぁと個人的には思う。
子どもだましをしたり適当にあしらうのではなく、ひとりの人間として対話をつづけた叔父さんとジェシーのように、この映画自体も観客と対話をしたがっているように感じた。
私個人の感覚としては、この映画はミニシアター向けの映画だと思ったので、大衆向けの大きな映画館で上映されていたことが不思議だったけど、
なるほどこの伯父さんジョーカーの人なのですね!笑
ジェシーの素直さ、超かわいい!伯父さんの立場だったら、とんでもなく疲れると思うしイライラもするだろうし、いやになると思うけど。笑
伯父さんとお母さんが電話でジェシーについて話すときに、「もううんざりだよ」と言いながらも微笑んでいたのが愛をかんじて好きだった。私も一緒にジェシーをみていて、2人と似たような気持ちになった。
子どもって、大人が思っているよりも色々なことをよくわかってて、大人が自分をどういう風に扱うのかを見抜いてる。真摯に向き合わないと関係がほんとうまくいかない。
それは、私が特別支援学校で子どもたちと過ごしてる中でも、いやってくらい感じる。
「この人は自分のわがままにどれくらいつきあってくれるのか?」「この人は自分の言葉や感情に対して、どんな反応をするのか?」
大人を困らせるような行動をした後に、大人の反応をよく見て、判断してる。
だから、自分がその場しのぎで対応したり、子どもからの発信をないがしろにしたりすると、子どもからの信頼を失って関係を築くのが難しくなる。
そういうときには、映画の中でお母さんや伯父さんがしていたように、「目を見て」「素直な心で」ごめんなさいと言うのが大事で、つまりそれは「対話をする」ということ。
対話が大切なのは大人同士でも変わらないと思う。
ジェシーは自分の感情をさらけだしたり考えを表現するのがとても上手だから、「変わり者の生意気な子ども」みたいに見えるけど、
子どもの多くはジェシーくらいに大人や周りのことをよく見ててよく考えてると思ってる。
言葉にしたり、態度に表したりするのを抑圧されているだけで、もう既に1人の人間として沢山の感情や言葉を持ってる。
映画の中で流れ続ける子どもたちへのインタビューの中でもそれが表現されてると思う。
今思うと、インタビューのなかの移民の子どもたちと、知らない土地に連れてこられて孤独な状態のジェシーって、立場としてとても似ていて…
どの子ども達もジェシーと同じように、孤独を感じていたり叫びたかったり、一人一人にパーソナルがあるんだよってことを伝えたかったのではないかなぁ。
子どもの立場って、とても弱い。判断能力がまだないからって理由で、親の意思が子どもの意思になるし、自分の暮らす環境を自分で選ぶこともできない。子どもの言葉や考えが、1人の人間として対等に扱われることって少ないような気がする。
特にジェシーのように友達がいなくて知らない土地で母親は帰ってこず父親は不安定でって環境に置かれたら、子供じゃ無い私だって伯父さんを試すような行動したくなる!
色々な感情や考えを1人の人間としてもっていて、でもそれをないがしろにされてしまいがちな子どもたちに対して、
嘘をつかずに自分をさらけだして、目を見て話をして、1人の人間として対話しつづけた伯父さんに救われた気持ちになった。
ジェシーと過ごす中で、叔父さん自身も対話の方法を学んで成長したし、気づきを得ることができた。最後には、自分自身の感情もさらけ出していいってことに気づくことができた。
対話によって関係が築かれること、対話によって気づきを得ることができることに、改めて気づかされたなぁ。
演出が多くて意図的に心拍数を上げられるような映画は、感情が大きく揺さぶられるから感動した、とか楽しかった、とか感情だけが残ったりする。
けど、この映画は、
インタビューの言葉を思い出しては考えさせられたり、伯父さんとジェシーとのやりとりを思い出して楽しくなったり、
じわじわと「観てよかったなぁ」と思える。そんな映画でした!