劇場公開日 2022年11月5日

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「世界は関係でできている」やまぶき penさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0世界は関係でできている

2022年11月18日
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鑑賞方法:映画館

「七重八重 花は咲けども 山吹の (実)みのひとつだに なきぞかなしき」

この映画を見て江戸城の開祖、太田道灌の山吹伝説を思い出しました。
鷹狩りの途中俄雨にあった道灌は、近くのみすぼらしい家にはいって「簔(みの)はないか」
と問うたところ、一人の少女が黙って一輪の山吹を差しだしたそうです。道灌は「私は簔がほしいといったのだ」と怒ったそうですが、城に帰ってある家臣から、それは冒頭のうたに託して「簔さえ買うお金が無い」ことを奥ゆかしく伝えたものだと諭され、大いに恥じ入ったというお話です。

この映画の主人公のお父さんは体制側の人間で、その家は山吹伝説の少女の家みたいに決してみすぼらしくはなく立派なおうちなのですが、戦場カメラマンのお母さんの影響からか、彼女には、そうした貧しくも名も無き生活をしている人達によりそう心があって、山吹伝説の少女が「だまって」山吹を差しだしたように、ある関係性を求めて「だまって」プラカードや自分(やまぶき)の姿を差し出したのだと思いました。

世界には、色々な立場や民族や人種の人達がいて、それらが複雑な関係性をもって成り立っています。そして人も物も含め、すべてのものが、独立した存在としては多分意味をもっておらず、偶然かもしれない多様で無数の関係性において、はじめてその存在意味をもっているのではないか。最近そんなことを思うようになりましたが、この映画はそんな漠然とした思いに一つの形を与えてくれたような印象を持ちました。そんなわけで、ラストの多くの○○を捉えた俯瞰アニメーションには胸が熱くなりました。

題材はシリアスで、賛否両論かもですが、微笑ましくも吹き出してしまうシーンもちゃんとあって、私はバランスのとれた良い作品だと思いました。

pen