劇場公開日 2022年12月16日

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「フィクションという形をとったノンフィクション」ケイコ 目を澄ませて マツドンさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0フィクションという形をとったノンフィクション

2024年2月11日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

現実の世界では、理由とか目的とかは、だいたい後付け。私たちは何となく何かを決め、日々の流れの中で何かが始まり何かが終わっていく。自分の気持ちをなぞってみると、理由らしきものを見つけ出すことはできるのだけれど、ぼんやりとした曖昧なものだったりする。普通の人の日常って、そんなもんでしょう、きっと。

岸井ゆきの演ずるケイコがボクシングを始めた理由も、またしかり。説明されるのだけど説得力はない。そして、やめる決意は中途半端で、ジムの人間関係の中で迷い、ダラダラと続けていく。ケイコの表情はいつも複雑で、見るものに明確な答えを与えてくれない。言葉にしない分、多くの思いが積み重なって、笑いながら泣いているような、泣きながら笑っているような。

リアリズムを追求すると、こういう映像表現になるのかもしれない。ボクシング映画といえばドラマチックな展開とカタルシスを求めてしまうけれど、現実のボクシング、そしてボクサーの日常には映画音楽なんて流れてこないわけだし。
だから、ケイコのリアリズムが強い説得力をもつ。ケイコが、迷いながら同時にひたむきに日々を積み重ねる姿に、心を動かされる。強さと弱さをあわせもつ彼女が身近にいるような感覚になる。
多くを語らない。そのことが、こんなパワーを生むとは。ちょっと、驚き。

マツドン