「“映像”こそ最大の教材」バビ・ヤール シューテツさんの映画レビュー(感想・評価)
“映像”こそ最大の教材
凄いという情報だけは入っていて、怖いもの見たさで久々に第七藝術劇場まで足を延ばし鑑賞して来ました。
ドキュメンタリーなので覚悟はしていましたが、昔ホロコーストを描いた『夜と霧』を観た時と同等の衝撃を受けました。
セルゲイ・ロズニツァ監督の作品は初見ですが、ウクライナのキエフで育ったそうで、本作は1941年のウクライナの首都キエフ郊外で起きた「バビ・ヤール大虐殺」を全編アーカイブ映像で描いた作品であり、今のウクライナ戦争を考えると、本当に呪われた土地の様に感じてしまいます。
しかし、最近中国の歴史小説を好んで読んでいるのですが、大陸というのは異民族間でもう何千年も前からずっと同じような戦争を行ってきて、同じような大虐殺の記録も山ほどあり、あまりにも昔だとそれが事実であっても神経が麻痺していて読んでいても「ああ、そうだっのか」位にしか思い至りません。最近読んだ『項羽と劉邦』の中でも項羽が行った大虐殺も規模はもっと大きかった筈です。アニメの『キングダム』でも同じように何万人を生き埋めにしたエピソードもありました。日本では何百年前の織田信長だって大量虐殺していますしね。
この地球の大地はどれだけ人間の血を吸ってきたのだろうと思わずにはいられません。
この作品の出来事は1941年であり、私の生まれるたった14年前であり今からでもたった81年前の出来事なので、何千年経っても人間の本質って大きく変わっていないという事がよく分かります。そして、こうして映像で残っているのを観ることが出来る私は、まさに“映像の時代”に生きている人間なんだと実感できました。更に技術向上により昔の映像もかなりリアルに再現でき生々しく観るが出来ました。
恐らく確信犯だと思いますが、敢えて説明を簡略化して時系列順だと思われる映像の断片を観ることだけに集中させられる作品なので、記録映画を見慣れていない人には苦痛でしょうが、映像そのものの力を信じての編集だと思います。
実際の「バビ・ヤール大虐殺」は写真だけで動画はなかったのですが、その後のドイツ軍戦犯の公開処刑は最初から最後まで動画で映し出され“戦争”とは?を考えさせられました。
それと同時に映像の持つ力も感じ、私自身これまでに“映像”によってどれだけ自我を確立したか分らないほど影響を受けてきました。
映画を含め、テレビニュースなどの大事件、大災害の映像から、今では個人の動画配信まで様々な影響を受け考えさせられます。近々では韓国梨泰院のハロウィンでのYou Tubeの事故映像なども衝撃的でした。生々しい演出のない映像により人間の行動や本質が垣間見えてきます。
人間(人類?)がもし成長できるとするならば、“映像”こそ最大の教材であって、本作などはとりあえず成人した人間なら、人間を知るための知識として絶対に見る(見せる)べき作品である様な気がします。
追記.
しかし、この大虐殺はたった2日で3万人以上のユダヤ人が射殺されたとのことですが、近年の日本はこれ位の人数が年間に自殺しているという事も忘れないようにしておきたいです。