クリエイション・ストーリーズ 世界の音楽シーンを塗り替えた男 : 映画評論・批評

2022年10月18日更新

2022年10月21日より新宿シネマカリテほかにてロードショー

電車に乗り遅れた時、あなたならどうする?

とにかく忙しい映画だ。

1960年、グラスゴーで生を受けた音楽少年アラン・マッギーは、デヴィッド・ボウイやTレックスの洗礼を受け、多感期に入るとセックス・ピストルズに遭遇、鼓膜を突き破られるような衝撃を受けバンドを始める。ご多分に漏れず夢を追ってロンドンへ。だが、ロックスターへの道は果てしなく遠い。暮らしに困窮すると鉄道会社に就職、仲間たちと開業したクラブでバンド発掘を開始、昼夜奮闘しながらマネージメントへと乗り出していく。

ここからが本番。“クリエイション・レコーズ”立ち上げからの苦難を乗り越え、マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン、プライマル・スクリーム、そしてOASISらと劇的に出会い、ブリット・ポップの景色を変えていく。

OASISがライヴを行うL.A.に降りたったアランが取材に臨む。白ワイン、シャンパンからオン・ザ・ロック、片時も酒を手放さない彼の語りを横軸に、グラムロックに触発された思春期、ピストルズを目指した青年期、アルコールとドラッグ漬けの中で音楽を探し続けた日々が活写されていく。

“クリエイション・レコーズ”は、憧れだったボウイが「レッツ・ダンス」を歌い、カルチャー・クラブがチャートを席巻した1983年設立。創業メンバーはアランとバンド仲間たち。経営感覚ゼロで行き当たりばったり。レコーディングに2年も費やす天才肌もいた。当然、資金はすぐに尽きる。杓子定規で官僚的な銀行員に反発し、レーベルをメジャーに身売りした男に辟易し、闇金を調達して起死回生に賭ける。

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Fワード連発、破天荒な実体験満載のアランの自伝を余すことなく伝えたい。クリエイターたちの気概が漲る。製作総指揮に「トレインスポッティング」(1996)(※以下“トレスポ”)のダニー・ボイル、脚本に“トレスポ”の原作者アーヴィン・ウェルシュとディーン・カバナー、「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」(1998)に主演したニック・モランが演出を務める。アラン・マッギーには、“トレスポ”で最も情けないキャラクター、スパッド役のユエン・ブレムナー。U.K.ケミカル・ジェネレーションの精鋭たちが結集、それぞれの実体験が裏打ちされたリアルな描写と編集で息つく暇を与えない。

でも、ただ忙しいだけじゃない。

無鉄砲で酒とクスリに溺れても、音楽と向き合う時だけはストイックなアランには運命の導きがあった。電車に乗り遅れたから生まれた奇跡の出会い、天に召された母との再会、柄にもなく政治に首を突っ込んだ後には悔恨も。そして、身も心も憔悴したリハビリの過程に芽吹く新たな希望。映画だからこそ表現できる特別なモーメントが絶妙にブレンドされている。

電車に乗り遅れた時に、悔やむのか、受け入れるのか。それはあなた次第。予期せぬ所に、夢を追う者にだけ与えられる特別な導きが待っているかも知れないのだから。

髙橋直樹

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