劇場公開日 2023年4月28日

「紛れもなく劇場映画化作品の最高傑作の一つ」劇場版TOKYO MER 走る緊急救命室 アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0紛れもなく劇場映画化作品の最高傑作の一つ

2023年4月29日
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鑑賞方法:映画館

2021 年に放映が開始された救急医療をテーマにしたドラマで、MER とは Mobile Emergency Room(移動式緊急救命室)の略である。僅か2年で医療ドラマのトップに躍り出た感のある完成度の高さは驚嘆すべきレベルで、私はこれまでの全放送回を見ている。映画中で人物の設定や関係性は一切語られていないので、ドラマを見てから鑑賞されるように強くお勧めしたい。

テレビシリーズの劇場版映画化というのは昨今の流行であるが、テレビドラマと劇場版映画の違いは、端的に言って料金を払ってまで見る価値があるかということに尽きる。率直に言って、映画化する価値があるとは思えない作品にこれまで散々出くわしてきたが、本作は紛れもなく大変な傑作であり、この映画の真価を見るためには、レンタル等に金を払ってもこれまでのシリーズを見るべきだと思う。

140 分を超える長さが全く気にならず、一瞬も無駄なシーンがない。これほど濃密なドラマで頭の中を掻きむしられるような思いをしたのは本当に久しぶりである。事故現場に取り残された群衆にも役割が与えられていて、分散化してしまった現代人に、見える形で助け合いの重要性を教えてくれているのには本当に感心した。この脚本家は只者ではないと思ったら「キングダム」の人だった。

ご都合主義のところがない訳ではない。例えば現場で手術ができると言っても患者は1人が限度であり、2人以上の手術が行える体制にはないので、そうしたシチュエーションが避けられている。もし現場で手術が必要な複数の患者が発生した場合には、助かりそうな人から順番をつけるしか対応法はない。これが真の意味でのトリアージであるが、これまでそのようなシーンは出て来なかった。

ところが今作では、究極の選択を迫られる事態に陥り、主人公の迷いが見る者の心を鷲掴みにするようなところがあって、本当にドキドキさせられた。それぞれの人物が持つ価値観と、ギリギリの状況でどのように判断するのかがこれ以上問われる場面があるとは思えないほどである。全ての登場人物にはそれぞれの思考のバックボーンがあり、それがこれまで手を抜かずに綿密に描かれて来たからこそのリアリティなのだと思われた。このためにドラマを見る必要があるのである。

主演の鈴木亮平の存在感にはとにかく圧倒された。「虎狼の血 LEVEL2」の極悪非道なヤクザの組長を物凄い迫力で演じた同じ人とは到底思えない。間違いなくアカデミー賞レベルの演技だと思う。共演者の面々も存在感がしっかりしていて、まるでシェイクスピア劇の登場人物のように、それぞれの意思を感じさせている。厚労大臣役の徳重聡も憎まれ役を好演していた。それにしても、第二の裕次郎を発掘というキャンペーンで颯爽とデビューしたのに、このポジションというのは本人も残念なのではあるまいかという思いは拭えなかった。

音楽も演出も抜けているところがなく、映画の面白さをとことん見せてくれている。これが映画の面白さである。このレベルに達していないものは容易に劇場化などするべきではない。
(映像5+脚本5+役者5+音楽5+演出5)×4= 100 点。

アラカン