「商売にアグレッシブな15歳と成長しきれない25歳の恋のさや当て」リコリス・ピザ ニコさんの映画レビュー(感想・評価)
商売にアグレッシブな15歳と成長しきれない25歳の恋のさや当て
リコリスといえば、ハリボーの渦巻きお菓子やサルミアッキなど、癖の強い味の黒い菓子を連想する。リコリスのピザとは……と思ったら、映画の舞台であるサンフェルナンド・ヴァレーにあったレコード店の名前だそうだ。リコリスの黒、ピザの円盤型、LICORICE PIZZAの頭文字で、LPレコードのことを指す。物語には、ピザもレコード店も出てこない。
アンダーソン監督の中での、物語の場所と時代をあらわすアイコンなのだろう。
恋愛感情の芽吹きはじめの、幼い駆け引きにむずむずする楽しさがある映画だ。ただし、70年代のアメリカローカルのアイコンがたくさん出てくるので、知識がないと楽しさが半減するタイプの作品だとも感じた。アンダーソン監督の見聞が織り込まれているそうで、この時代や地域、それに根付いたカルチャーに親しみのある層にはすごく刺さるのだろうと思う。私は知識がない方なので、ゲイリーとアラナの突飛な行動にただただ振り回された。
ゲイリーは高校のイヤーブックのための写真撮影の場で10歳年上のアラナをナンパする。ウォーターベッドの販売を始めるが、店で知り合った女の子にも手を出す。車の運転もするし、オイルショックでベッドの商売が厳しくなったらピンボール店を始める。
いや、15歳でそんなにガツガツ商売するんだ?なんでそこでフロントガラス破壊すんの?(直後の展開は笑ったけど)当時のハリウッドの子役ってあんな感じなの?と面食らった。
それに対してアラナは、年齢の割に幼い印象がある。10歳差と聞いて、お姉さんの手のひらで少年が転がされる話を連想したが(ポスターの影響もあります)、不器用な恋のさや当てをする姿は、まるでゲイリーと同年代だ。撮影現場ではメイクをしないことがルールだったそうで(登場人物が物語の中でメイクをするという設定の場面のみ、俳優が自分でメイクをしたそうだ)、余計に幼く見えた。
ふたりのやり取りのテンポのよさは楽しい。レトロなファッションがかわいい。ショーン・ペンとブラッドリー・クーパーが拝めたのもよかった。でもやっぱり、一見脈絡のない展開は、こまごま詰め込まれているであろう小ネタや時代背景、当時を表すアイテムなどを知っていてこそ初めて生きてくるのだろうという気がする。
そのニッチさがアンダーソン監督の作風ではあるが、好みが分かれる映画の典型という気がした。というか、日本に住んでいてこの内容にピンとくると言えたとしたらよほどの何か(賞賛でも揶揄でもない)。それくらいのローカル映画。
深く考えず、ひとつひとつのシチュエーションを刹那的に楽しむが吉。
LICORICE PIZZAの題名はどこからきてるんだろう?と、調べたいと思っていた矢先。ありがとうございます。
それと、小ネタと時代背景わかっていないと。全く共感です。
それを差し引いても、初々しいくっついたり、離れたりは、忘れかけていた感情を思い起こさせてくれましたが。