湖のランスロのレビュー・感想・評価
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甲冑者かわいや
“アーサー王伝説”というのは、おそらく欧米人にとっては(日本人の“源平合戦”や“忠臣蔵”のように)周知のものなんだろうな。この映画は最終盤のエピソードを切り取ったようだが、詳しくない者からしたら、みんな甲冑を着けているし誰と誰がどこで戦っているのかもよくわかりません。ジョン・ブアマンの「エクスカリバー」やモンティ・パイソンのパロディは見ているが、剣豪ランスロットが王妃と熱愛中だとかはまったく記憶になかった。
ロベール・ブレッソンの文体は揺るぎなく、騎馬試合の場面でも馬の足ばかり映しているし、勝敗の決した瞬間も観客席しか見せないという徹底ぶり。独自のモンタージュの迫力は認めるものの、省略が多いのでストーリーが入ってこない。
「最後の決闘裁判」ではフランス人(役)が英語をしゃべっていたが、この映画はイングランド人(役)がフランス語をしゃべっていて、少しく違和感あり。
「あなたは殺されます」
王への忠誠、仲間たちとの絆、騎士道精神、神への信仰、王妃への愛、すべてがなんだかうまく貫けないように描かれていたように思う、
ランスロと王妃の不義で、ランスロは王からの信頼を失う。任務を遂行できなくて騎士たちは連帯を失う。ランスロの不義に気づいた騎士がそれを利用して権力を得ようとする。ランスロは誤って信頼できる部下を殺してしまう。謀反を起こした騎士の討伐にランスロたちは向かうけれど、王はもはやランスロに期待などしていないし、ランスロたちは全滅してしまう。王妃への愛も最初は断ち切ろうとしたのにもかかわらず、結局断ち切れなくて、露見してしまい、国が滅ぶ原因になる。すべてが中途半端で、貫徹されず、満たされる者は誰もいない。完璧ではないところが、人間らしいのだけれど。
ランスロたちが全滅したから、きっと、王も王妃も殺されてしまったか、辱められているかどちらかの結末をむかえたのかもしれない、
全編を通じて、男(騎士)の象徴である甲冑が、からから、と音を立てているのが印象的だった、最後の場面では特に、その、からから、はあまりに空虚に響く。
その最後の場面では、ランスロは愛する王妃の名を口にして、仲間たちの死骸のうえに斃れる。斃れてしまえばもう、みんな甲冑を着た男たちで、区別はつかない。そこにはもう既に「個」「個人」「個性」は存在しなくて、王の単なる「駒」のひとつとして死んでいくように思えた。
血がたくさん溢れたり、首が飛んだり、みんな壮絶に死んでいく。なのに、ブレッソンが映画にすると静謐で淡々としている。いかにも騎士っぽい勇ましい音楽が流れるのだけれど、その淡々とした映像とはなんだかミスマッチに感じて、そこがまた、空虚さを増長させるようだった。
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