「巧みな脚色。そしてビル・ナイの俳優人生に燦然と輝く見事な名演。」生きる LIVING 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
巧みな脚色。そしてビル・ナイの俳優人生に燦然と輝く見事な名演。
非常に心を打たれる映画だった。オリジナル版と同じ志を持ったストーリーでありつつ、本作独自の、例えば列車通勤の一場面を用いて勤務先での序列や風土をかくも巧みに表現してみせる手腕は見事だ。ウィリアムズ氏は口うるさくもないし、不愉快な人でもない。しかし部下たちは誰もが、そうすることが礼儀であるかのようによそよそしく壁を作る。こうした古い階級社会のしきたりを突き崩し、皆が一丸となって自分以外の誰かのために身を投げ出して事を為そうとする衝動に「生きる」の本質を見た。「ゴンドラの唄」に代わるスコットランド 民謡の響きと、それを掠れ気味に切々と歌い上げるビル・ナイのたたずまい。それでいて部下を従え「さあ、いくぞ」と雨の中を飛び出していく気高さ。カズオイシグロの脚色もさることながら、ケープタウン生まれの監督の演出が冴え渡る。元々のトルストイの要素も相まって、世界が共有しうる力強い普遍性を持った傑作である。
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