「小役人から英国紳士へ」生きる LIVING ジョンスペさんの映画レビュー(感想・評価)
小役人から英国紳士へ
泣ける映画を1本を選べと言われたら黒澤明のこれを選ぶ。「いーのちみじぃかしぃ」とブランコに揺られながら口ずさむ志村喬の哀愁漂う姿を思い浮かべるだけで落涙できる自信がある。とは言え、レンタルのVHSで最後に観たのが30年ぐらい前だから展開やディテールはそれなりにうろ覚えだったのだが、今回の英国版リメイクを観て記憶が蘇りつつ、案外原作に沿った話運びをしているのだと思った。
舞台を1950年代の英国に置き替え、カズオ・イシグロが得意とするノスタルジックな雰囲気が映像や音効でしっかり表現されており、安心して観られた。まあ、日本人なんで当時のホントのロンドンはわからんのだけど…。
背中を丸めた志村喬の小役人・小市民風情は、ビル・ナイだとシュッとしすぎだろと想像していたが、実際元々しょぼい人物とは設定されていない印象。志村が夜遊び・女遊びとは無縁で退屈で無難なだけの人生を送ってきたのとは違い、ビル・ナイの場合は死期が迫っていなければ、こう見えて私も若い頃はねえとか、リスのような前歯でおちゃめ感あるよいキャラだった部下女子をマジに口説き出しそう。スコットランド民謡のナナカマドの木もゴンドラの唄に比べて曲調にハリがあり、ビル・ナイの背筋がより伸びそうである。
急にやる気出て公園作りに邁進しちゃう転換点が曖昧に思えたし、部下男子への手紙とかも立派すぎる気もしたのだが、それでも真っ当すぎる助言に今作でもつい落涙してしまった。
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