劇場公開日 2022年6月3日

「負ける人たち側のオリンピック。」東京2020オリンピック SIDE:A 村山章さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0負ける人たち側のオリンピック。

2022年6月29日
PCから投稿

毀誉褒貶の激しい東京オリンピック2020の記録映画だが、SIDE:A、SIDE:Bに共通する印象は、河瀨直美というオリンピックに過剰なロマンチシズムを感じている人が、極力イデオロギー的には無臭の体を目指したということ。それは意外に成功していて、おそらく断片的に差し込まれるさまざまなカットから、ある人は思ったよりオリンピックに批判的だと捉えるだろうし、別の人は反対派への悪に満ちていると感じることもあると思う。実際、SIDE:Aでは、同じ場面について真逆の感想を見かけることが多かった。

つまり、河瀨直美は、この映画が観る人のイデオロギーを浮かび上がらせるリトマス試験紙になることを目指したのだと思う。ある意味では韜晦の映画であり、しかし、イデオロギーを消し去ろうとしてもなお見えてくるものこそが、この映画の、そして河瀨直美という作家の本質ではないかという気がしてくる。

SIDE:Aの特徴は、決して陽が当たるわけではなかったアスリートたちにフォーカスしていることで、ひとつひとつの案件をもっと掘り下げて欲しいとは思うが、勝者の栄光の影に、圧倒的な数の敗者がいるのだと描き出した視点は、オリンピック公式映画にしてはとても新鮮で野心的で良かったと思っている。

ただ、もともとスポーツやオリンピックに興味が薄い自分には全体に冗長で退屈ではあり、また、河瀬監督と関わりの深い女子バスケだけはやたらとスポ根風に盛り上がっていたこと2違和感があり、そしてオリンピックの未来を子どもたちに託したいという過剰なセンチメンタリズムが肌に合わなかったことは付記しておきたい。

村山章