「大地を鎮める御役目とロードムービーを新海解釈で描く娯楽作品」すずめの戸締まり ミラーズさんの映画レビュー(感想・評価)
大地を鎮める御役目とロードムービーを新海解釈で描く娯楽作品
ネタバレあり
東北の震災を題材にした作品なので、公開後にTwitterなどで、一部識者から震災をネタに商売してると嫌悪に近い意見もチラホラ見受けられたので、覚悟して公開3週目に鑑賞したが、節度あるきちんとした娯楽作品になっており安心した。(もっとも『天気の子』もかなり攻めたテーマの作品だけど)
近年でも大きな震災に遭っている九州から四国を経て関西(神戸阪神も過去に大きな震災があったのを知らない世代も多い)・東京・東北へ向かう主人公達の姿は、荒ぶる大地を鎮める御役目背負った巡礼者のようで、旅先での交流も含め映画の一つの形式でもあるロードムービーを新海誠監督の解釈で描かれている。
キャラクターの設定もバランス良く配置されていて鈴芽と草太の関係もイケメン主人公が椅子になって行動するなどの捻りもあり上手い。
災害を鎮める人物や物語を描くと伝奇物に偏った作品なったりする懸念もあるけど、そうなっていないのも良識だと思う。
作品的なスケールも広大で、高い視線や寓話的な絵との対比で日常生活や営みを、人の目線で見せるバランス感覚も新海作品の良い点。
気になるところは、椅子にされた草太とダイジンの追っかけで流れる大野雄二みたい音楽が作品の雰囲気とマッチしてないと思う。
あと多くの懐メロ系ソングなどもオッサン接待?な要素。
現代のロードムービーには、乗り物などを使った移動の快楽を感じさせる映像が不可欠だと思ってるが本作は正直弱い。
新海作品は、いつも流麗な鉄道描写へのこだわりがあるがメカには興味ないのだろう。
アニメーション作品としては、文句無しな映像密度や解像度はとても気持ちいいが、一般向け作品の常として多めの説明台詞やエピローグ過多な締めやなどがあり、異性に魅かれる場面で人物(冒頭の鈴芽)の顔が赤みがかる描写などは、多くの日本アニメ特有の記号表現であるが、そろそろ別のアプローチはないのか?と感じる。
日本映画で役者が叫ぶ場面が多い予告編を見せれるのと同じことだが、新海監督は百も承知やってるのかもですが
ただ、自分が鑑賞した回の隣りの座席の若い女性は、最初のうちは何度もスマホをいじっていたが、後半になるにつれ画面に見入っていたので、上記の点など些細な問題なのかも。(スマホ画面を暗くしているとは言え上映中はやめて欲しいが😓)
総体的には、大地を鎮める御役目を背負った被災女性の成長をロードムービーとして新海解釈で描く優れた娯楽作品であり、地震国日本に住みつつも過去の悲劇(戦争も)や災害を知らない世代や同情する振りで美談にして利用する輩達への「忘れるな!」と伝えるカウンターの側面的も含んでいる思う。
懐メロは、中高年にうけるため…ではないと思います。今作は新海監督のジブリオマージュがかなりちりばめられていました。ユーミンの曲を自然に出すため、芹澤を懐メロ好きの設定にしたのだと思います。