「是非!!」屋根裏のラジャー かこすけさんの映画レビュー(感想・評価)
是非!!
「屋根裏のラジャー 」レビュー
是非!!
映画館で観た予告で「子供向けのファンタジックなアニメーション」という印象を受けていました。きれいな絵が動くのがまず好きなので、興味がありつつ、それ以上の魅力は正直感じてなかったです。上映が始まるも、人気がなくてあっという間に上映回数が限られてしまい、予定を合わせて観に行くか迷ったので、とりあえず原作を読んでみました。原作はイギリスの詩人による児童文学作品で、数々の賞を受賞したとのこと。読んでみると予告で感じてたイメージとかなり違う!一体こんなホラーっ気のあるものをどうアニメ化したかな?と観てみたくなったので、映画館に足を運びました。
観た感想。個人的には原作のどこを改変して、どこに付け加えをして、どこを削っているか、という点について、かなり頑張っているのがわかり、納得の行く仕上がりになっていると感じました。
児童文学作品を原作に持つ映画は、ジブリでもいくつもありましたが、元々児童文学が好きなのもあり、「ゲド戦記」「借りぐらしのアリエッティ(原作は「床下の小人たち」)」「思い出のマーニー」はみな先に原作を知っていました。それらの3作品より原作との兼ね合いがかなり良かったと思います。まあ、「ゲド戦記」は原作ファンからしたらあり得ない出来だったと思いますが(申し訳ないけれど正直な感想です)、「アリエッティ」も「マーニー」も、原作に長さと深さが既に充分あるため、原作への丁寧な敬意は感じるものの、原作にだいぶ負けてしまう、2時間弱といったような尺にまとめるのに無理があると感じたのに対し、今回の作品は上手にまとめられていました。原作を知らずに観た方には、原作はさぞかしもっとキャラクターがしっかりしてるのではないかと思われるかも知れませんが、本作はむしろ原作の方がキャラクターの背景は描かれていませんし、映画で涙を誘う背景は映画のオリジナルの部分も多いです。そういったこともあり、是非原作も読んでみて下さいと、声を大にして言いたいところです。原作を読めば、ポノックがどのように原作を解釈して、どのようなメッセージを込めて映画にしたのかがわかりやすくなると思いますので。
原作が、映画に劣るとか、そういうことではありません。原作は文学作品として読んでいて引き込まれますし、結構容赦なく怖いと感じるシーンもあり、ハラハラドキドキ、意外な展開の連続、そしてラストの希望を含んだ切なさと、とても面白いです。物語の基本の展開や設定は原作と変わらないので、やはり原石として素晴らしいのだと思います。ここで「原石」と書いたのは、上で挙げたジブリの作品の原作に比べて、本作の原作は文字数的にも多分少ないのでしょうけど、そこから加工出来る余地が沢山あり、既に完成された宝石でなく「原石」になり得たと思うからです(あくまでも個人的な印象です)。また、それはある意味、原作は文学作品としては完成度が高くても そのままの感じで映像化すると、子供には恐怖感が強く残るでしょう。それを承知でその路線を行くことも出来たかも知れませんが、伝えたいメッセージを邪魔しない程度に、そのあたりの原作のホラー感や生々しさはだいぶソフトにしてあります。また原作は、登場人物の人間性を掘り下げることよりは、ストーリーの方に重きが置かれている印象なので、そのままだとおそらく大人の鑑賞に耐えにくかったかも知れません。まあ、イギリスの感性ではどうなのかはわかりませんが、原作の主要な登場人物のキャラクターは日本人にはやや不自然に感じるのではないでしょうか?例えて言うなら原作のアマンダはちょっと「長くつ下のピッピ」(知らない方はすみません)のピッピのようで、身近にいるかも知れない女の子の域をちょっと超えてしまってる感があります(文学作品の中では魅力的なところもあるんですが)。原作ではアマンダがイマジナリであるラジャーを生み出した背景は描かれていないので、ポノックがされた映画として幅広い鑑賞者に馴染むものにするための工夫が随所に見られます。(というか、これって映画では。根幹にあたる部分に近いかも知れませんね)。そんなわけで、以下はネタバレになりますので、原作や映画をあまり知らずに楽しみたい方はここまでにしていただいて、ここからは、個人的によいと思った改変点や追加部分を書きたいと思います。
①アマンダの人物像を観る人に受け入れやすくするための背景が描かれ、イマジナリを生み出した理由(父親とのこと)や、行動の理由(濡れた傘を洋服ダンスに入れてしまうなど)、想像力が物凄く豊かな理由(家が本屋であったこと)などが改変、追加されている。原作のままでは観る人が共感したり感情移入したりしにくいようと思います。
②停電の後の流れで、働き口を探している母親が面接でうまくいかずに帰宅、疲れているところに、娘が自分には見えないもののことで取り乱している場面で、つい娘を傷つけることを言ってしまう。ここからアマンダがラジャーを傷つけてしまう展開になるのですが、ここはとても上手に感じます。原作では娘の世界を母親はほとんど全面的に受け入れており、これもまたやや共感を得にくい気がします。映画の母親も充分できた人ですが、あそこで母親の葛藤や、夫を失くして頑張っているところが描かれることで、人間味がうんと増して見えます。それは、中盤でラジャーが一度家に帰り、母親の涙を目にするシーンにも言えます。いずれも原作にはない場面です。
③上の場面の後で、ラジャーが、ロボットの形のイマジナリと話すシーン。ここで「イマジナリは作り手の子供が忘れるようになると消えてしまう」ということが示唆されます。切ない場面ですが、ジンザンがさっと横切るのが描かれ、ロボットちゃんは消えるまでに救われたことが暗示されていますし、後に病院で再会しているので、粋なはからいです。また、「忘れられると消える」という設定は、ここで一度示しておく方が、ラジャーが消えかけてきた時のドキドキ感が増すのでよいような気がしました。
④エミリーやジンザンの背景が加えられていること。ジンザンは原作では本物の生きたネコの設定ですが、映画ではイマジナリであることがはっきりしています。ジンザンの台詞から、「イマジナリは想像主の想像したことに縛られる部分がある」という一応のルールが示唆されます。ジンザンは「眠らずにずっと見守っていて欲しい」と願った想像主によって、眠らないイマジナリになっているわけです。これはとても重要な台詞で、そのことがバンティングのイマジナリである黒髪の少女の在り様に思いを巡らせる部分です。「話すこと」さえ想像してもらえていない少女です。また、エミリーはラジャーに自分は病気で大人になるまでに死んでしまった子どものイマジナリだった、アマンダはまだ生きているから会えると、ラジャーを勇気づけます。個人的に仕事で重度の心身障害のお子さんと関わったりしているので、ぐっときた場面です。エミリーの早くして亡くなってしまった想像主を思うと、エミリーがほとんど普通の女の子の姿をしていることや、空さえ飛べてしまうことに、胸を打たれます。
⑤図書館の掲示板で写真を選び、その人の一時だけの想像の世界の登場人物になるというお仕事に出かけるイマジナリたち(この設定は原作にも少しニュアンスは違いますが大まかにはあります。)。そこでイマジナリの1人ホネッコガリガリは、男の子に気に入られて一時でないその子のイマジナリに選ばれます。するとその子に想像された姿に変わります。このシーンは次に続くラジャーの姿が変わってしまうという流れのための伏線になってもいますが、バンティングのイマジナリである少女について考えさせられる重要な場面でもあると思います。
⑥バンティングの最期について、何をして終わるのかという出来事は原作と同じですが、黒髪の少女の行動は全然違うものになっています。ここが映画の改変に一番ハッとしたところです。そして、私の見間違いでなければ、バンティングが消えた(原作では消えはしませんが)あとに、バンティングの写真がハラハラと残っていたと思いますが(私は視力が大変低いので違ったらすみません)、ここがあの黒髪の少女に一言も喋らずして物凄い奥行きを作っていると感じます。あの少女はバンティングの写真を選んでやってきたイマジナリだったのか、だとしたら、以前もっと違う姿だったのかも知れない という読み取りも出来ます。ですが、あそこまで下僕のように作られたイマジナリである黒髪の少女の中に意思の力が残っていて、あの行動に至ったのなら・・。バンティングは映画の中で「想像は現実に勝てない」と言っています。そして、消える間際に、自分が飲み込んだもの(黒髪の少女)の味を、「まるで現実」と形容して消えます。
現実とは何なのか?想像が意思を持つとはどういうことなのか?バンティングとは一体どのような存在と解釈出来るだろうか?そういう考察をしていける素晴らしい提示だと思いました。
さて、あれこれ感じたことを書いてみました。映画のラストは、原作をもう少し取り入れて、レイゾウコとの別れを長くして、ラジャーの絵にまつわる話を入れた方が好みでしたけど、あれは尺の関係でそうなっちゃったのかなとも感じました。序盤でアマンダがクサクサしながらなぐり描きするシーンがあるので、私の思うようなラストの案がもしかしたらあったのかも?とも思いますが、どうなのでしょう?細かく言えば、ここは敢えて台詞にしなくてもいいかなとか、レイゾウコという名前は原作のままなんですが、変えちゃっても良かったかもとか、宣伝がイマイチ上手でなかったのは残念とか思いますし、絵はきれいですが、個人的には3Dアニメが好きでないから、これ以上立体感出さないでいいとか思ったりはしますが、ちゃんと評価されないと勿体ないと感じる作品でした。
もし、私のレビューを読んで興味が湧いたら是非観てみて下さい!
こんな長い文章、読んでくださった方、ありがとうございました。