劇場公開日 2022年4月29日

「窪田正孝はよく頑張った」劇場版ラジエーションハウス 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0窪田正孝はよく頑張った

2022年5月6日
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鑑賞方法:映画館

 テレビドラマの方はときどき見ていた。主人公は窪田正孝の演じる放射線技師としてのスキルが高い五十嵐唯織だが、必ずしも毎回活躍する訳ではなく、一話ごとに技師や医師のそれぞれにスポットが当てられる。群像劇と言ってもよかった。
 本作品はテレビドラマと同じ鈴木雅之さんの演出で、上映時間が限られているから全員にスポットを当てる訳にはいかなかったが、五十嵐と、本田翼の放射線科医の天春杏を中心に、全員が活躍するチームストーリーとなっている。
 天春病院での出来事と、杏の父親の病院がある美澄島(ロケ地は岡山県の真鍋島)での出来事のふたつが並行して進み、折からの悪天候が風雲急を告げる。
 ラジエーションハウスらしく、放射線で撮影された写真や映像が上手く使われていて、人間が怪我や死に向かい合うときのありようが描かれる。窪田正孝や広瀬アリス、それに山口紗弥加の演技が光っていた。
 一方でお笑い担当の八嶋智人や浜野謙太は元気一杯に馬鹿をやる。矢野聖人の悠木倫は密かに感染症対策の研究をしていたようで、空気感染する新型ウイルス対策に俄然やる気を出す。コロナ禍を笑い飛ばすみたいなアイロニーを感じた。
 美澄島でのヒロイン役の本田翼の演技は相変わらず一本調子だった。キムラ緑子や今野浩喜の好演に助けられて、ヒロインとしての立ち位置をギリギリ保った格好だが、当方としては天春元院長との場面に不満がある。
 天春杏は医師なのだから、父親の死に際しても冷静な態度で呼吸と心拍と瞳孔反射の停止を確認し、時計を見て死亡診断の宣告をしながらハラハラと涙を流すような、そういうシーンが欲しかった。それがあれば天春杏の人物像にも深みが出て、物語に厚みが出たと思う。
 コメディタッチの作品としては楽しめたが、メインキャストが精神的に追い詰められたりしないから、ヒューマンドラマとしての奥行きが浅い。五十嵐の人物設定が単純なことに由来するとは思うが、ここまで来たら人物設定は変えられない。お笑い要素の強いエンタテインメントに仕上げるしかなかったのだろう。窪田正孝はよく頑張った。

耶馬英彦