「マルチバースの、良い点も悪い点も出ている。」スパイダーマン アクロス・ザ・スパイダーバース NandSさんの映画レビュー(感想・評価)
マルチバースの、良い点も悪い点も出ている。
前提として
・大体3回目。
・監督3人の他作品は未視聴。
・前作『~:スパイダーバース』は視聴済。
・原作と思しき『スパイダーバース』系統と『スパイダーグウェン』系統は何冊か読後。
・実写映画版『スパイダーマン』は大体視聴済。
情報量と展開がちょいと多すぎる。
良かった点から。
まず、なによりも視覚的楽しさ。
圧倒的に進化してる。間違いない。今作はキャラクターだけでなく、様々なアースが登場する。なので背景ごと画風が変化する。これが非常に楽しい。
心情が水彩画のような色と幾何学模様で表現される、グウェンのアース。
3Dアニメーションが基本ながらも、縁取りがマーカーのようなムンバッタン。
暴力的なまでのコラージュ、パンクアース。
そして、画風はマイルスと似ているが最先端かつ貧富差が垣間見える、2099アース。
旅的な楽しさが今回は非常に強かった。
しかも、実写映像との組み合わせまである。
今回は3Dアニメーション味が強かったのだが、それのおかげで実写が横に並んでも違和感が無い。これはなかなかの技術だと思う。
他にもそういう作品はあったと思うけど、大きく見た目が変わるのを「元から世界観が違うから画風も違う」という設定だけでなく、視覚まで納得させたのは本当にすごい。
次にアクションシーン。前作よりも、人を助けるシーンが増えた。スパイダーマン(というかヒーロー)といえばやっぱり人助けなので、こういうシーンが多いのは嬉しい。かつスタイリッシュ。
クモ糸一つでびゅんびゅん飛び回って、人を助けたり瓦礫をぶっ飛ばしたり……。バイクやマント、馬などの小物・乗り物を使ってもやっぱりスタイリッシュにキメてくれる。
スパイダーメンかっこいいぜ!!
カメラワークも素晴らしい。前作以上に情報量が増えてごちゃつくけど、とにかくかっこいい。かっこよさとか"映画的表現"みたいなのもマシマシで本当に良い。
あとキャラクター。
今作で非常に増えた。覚えるのが地味に大変だったけど、覚えたくなるほどに魅力的。
パンクとかスポットとか人気出そう。俺的にはグウェン姉さんの苦悩とか色々な表情が観れたから満足!!相変わらず、いやもっと美しくなっていた!!フィギュア買って正解!
あとメイデイ可愛い。生粋のアナーキスト(ホービーが敬愛してるの好き)。
さて、ここからは気になったところを。良い部分の裏返しもいくつか。
まずは視覚的なレベルアップが過ぎること。
画風の違いや実写との組み合わせなど、うまく行っている部分も多いけど、コミックらしさがちょいと失われた。懐古厨になりたくはないけど、3Dアニメーション感が強いのもちょいと気になる。髪の毛がもはやクレイアニメ。クレイアニメにも良さはあるけど、ここで観たいわけじゃない。
ついでに言うと、ムンバッタンのバス車内だったかな? 素人目で観ても、「ここはもう少しディテール増やした方がいいのでは……?」みたいな人物たちが居た。遠目でみているから"ぼやけてる"っていう表現かもしれないけど、バランス調整というか選択肢をミスってる気がする。
次に、演技面。正確に言えば日本語吹替および字幕面。
身体的な演技は相変わらず。少しだけ大げさにはなったかも。こっちはいいバランス。
セリフを日本人にも馴染むように変更した結果、うまく伝わらない部分が多かった。吹替で聞いていて「?」になって、字幕で観直したら「あ、そういうニュアンスだったんだ」とか逆に「字幕より吹替の方が正確に伝わるな」みたいなのが非常に多い。ミゲルとか一番影響食らってたんじゃないかな。
字幕サイドも吹替サイドも、「あの分量を真剣に仕事してる」のが強く伝わるし、どの映画でも起こり得ることなのかもしれない。
だけども、様々な言語や文化が混じる素晴らしいプロジェクトだからこそもったいない気がする。ただの素人意見だけど。
ストーリーも気になった。
それ自体は悪くないと思う。面白いものが詰まってる。
ただ、分量がちょいと多すぎる。どこかで次作に分けても良かったように思える。描きたいこともめっちゃ分かるんだけど、クライマックス感のあるシーンが後半で連続してちょっとダレた。二回目以降は感じなかったけど、初見はどうしても感じると思う。
スポットの"キャラクター"としての重要度がどうも気になる。舞台装置にしか見えないのだけれど、あそこまで愛嬌とインパクトのあるキャラクターにした方が良かったのか……?
「原作だとB級ヴィランだった」とのことで描き方に力が入るのも分かるけど。
結果的にテーマも巧くまとまってないように見えた。次作につなげるための前半なので着地点までは用意しなくてもいいけど、何がテーマなのかはある程度はっきりした方がいいと思う。
"家族"なのか"運命"なのか"ヒーローの仮面"なのか。それとも全部がメインテーマなのか。
そもそも情報量がただでさえ多いので、どこを重要視するかをもう少し絞らないと大変なことになる。今はスレスレのライン。
あと、音楽。相変わらず名曲ぞろいだけど、暗かったりチル系が多い。なのでうまくアガれない。アゲのときとサゲのときの落差はもうちょいあっていい。アゲの曲が一曲か二曲ぐらい欲しい。
そういえば、日本版主題歌は今回流してないのね。前回が相当不評だったんだろうな。
こうやって考えてみると、"バランス調整"が本シリーズ最大の課題なんだろう。
天文学的数の選択肢から何を省いて、何を強調して、全体を見てまたどこを調整して……
うわ本当にすごいプロジェクトをリアルタイムで観れてんだな。嬉しくなっちゃう。
好きなシリーズだからこそ、気になるところは気になる。そんな作品。
『ビヨンド~』に期待。