「ひ弱そうな若い新兵を主人公としたイスラエルのサスペンス映画」ブラックコマンド Kazu Annさんの映画レビュー(感想・評価)
ひ弱そうな若い新兵を主人公としたイスラエルのサスペンス映画
ボアズ・アルモニ 監督による2015年製作(82分)のイスラエル映画。
原題:Mesouvag kharig
今回の戦争によりイスラエルに大きな関心が芽生え、本映画を見た。戦争映画の雰囲気であったが、実際はイスラエル北部の基地を舞台とした兵隊サスペンスものというか、一種のB級ホラー映画で、以外性もあり個人的にはかなり面白かった。そして、初めてのイスラエル映画ということで興味深くもあった。
主人公は、ママとの連絡を絶やさない若く青白いメガネかけた如何にも頼りない新兵。バスで基地に向かうのだが、途中で屈強そうな兵士3名と一緒になる。4名で昼食のためパレスチナ人経営と思われるレストランに行くが、周りは怖そうに見えるパレスチナ人ばかり。3名はそこで豪華な食事をするが料金を払わずトンズラ。1人残された主人公は恐怖に駆られながらも、支払い無しで何とか店を脱出。
そう西部劇で、インディアン支配地でいじめ的に1人取り残される弱々しい白人青年といった描写だ。今時、先進国では見かけない構図で、イスラエル人のパレスチナ人への染みついた差別意識が、多分無意識で、しっかりと表出していて唖然とさせられた。
そのエピソードが有り、主人公にはパレスチナ人が基地にやって来ることへの恐怖心が有る。それなのに、軍曹と同僚兵士達は夜に遊びに出てしまい、主人公は1人基地の留守番をする羽目になる。夜中その基地で起こる恐怖の数々、敵の侵入と思いパニックを起こす主人公。隊長に入るなと言われていた部屋にも入ってしまい、体には血糊がベッタリ。
我を失っていたところに、軍曹たちが姿を見せ、主人公を鍛える為のドッキリだと種明かし。ふざけるなと怒る主人公だが、同僚3人が宥めて何とか仲直りし、少し一体感も漂う。その後の展開が予想外で面白かった。
あの血は何か、自分たち3名は知らないということで、軍曹の部屋に行き問い詰める。実はパレスチナ人子供とイヌが基地に侵入し、イヌを撃ち殺した。その死体だと白状し、自分は軍隊しか居所がない。上に報告しないでと泣きながら訴える。4名はそうかと同情して了解し、主人公は寝床へ向かう。やれやれと思ったが、ココから怒涛の展開へ。
同僚兵士2人はイヌの死骸確認の為あの部屋に迎うが、イヌとは思えぬ死体を発見。軍曹はその二人を後ろから斧で残虐に殺す。強そうにも見えたが、もう一人もあっさりと軍曹は片付け、主人公の部屋にやってきて銃を突きつける。手入れ不足の為か、軍曹は引き金を引いたが銃弾は発射されず、ナイフでの格闘に。弱そうな主人公であったが、格闘の末に何とか相手をナイフで刺すことに成功。相手に、何度も何度もナイフを突き刺す姿が、かなりおぞましい。
事件は軍が知ることになり、大勢の人間が駆けつける。4遺体が毛布に包まれて運ばれる中、怪我もあったか担架で運ばれる主人公。ママからの電話がはいるが、それに出ることは拒否。どうやら、男3年女2年と兵役義務が有る軍事強国ということで、あの弱々しいマザコン男が、闘いの末に一人前の兵士になったとの表現の様だ。中国人民間人を殺して一人前と捉える趣きもあったと聞く大日本帝国軍のあり様を、思い出してしまった。
監督ボアズ・アルモニ、脚本リア・レダーマン
出演
アサフ・ベン・シモン、エラン・ペレツ、イタイ・ズボロン、キー・コラベルニコフ。