劇場公開日 2022年9月9日

「煮詰める難しさ」百花 R41さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0煮詰める難しさ

2024年7月22日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

人間関係 特に切っても切れない親子関係
多くの人が多少なりとも親子関係に確執を持っている。
この物語は、その確執に認知症を掛け合わせた作品
小学生の時に突然姿を消した母
約1年 主人公のイズミはそのことが忘れられない。
基本的に好きな母だったが、その事がいつもどんなときも付きまとってくる。
イズミは大人になって結婚した。
おそらく彼は母に、単に報告だけしたのだろう。
それでも定期的に母に会いに行くようにしていた。
ある日、
1輪の花を絶やすことのなかった母が、枯れた花をしばらく経ったままにしているのを見る。母の所在が不明でスマホも置きっぱなし。急いで母を探す。
雨上がりの公園のブランコに乗る母
イズミはすぐに母の異変に気付いた。
しかし彼は、何もしなかった。
おそらくその年の暮れ、
年末31日に単独で帰省、母の誕生日の1月1日 1輪の黄色い花 いつものプレゼントを用意したが、どうしても自宅にいるのが我慢できなくなる。いろんな思いが襲ってくる。
仕事だと偽って家を出た。
さて、
この作品も象徴的で難しい。
イズミの仕事 声を記憶するAI 人間らしさを追求したが、メタデータを記憶した「モノ」を、人間チックに描かれたアニメーションで表現しても、そこに人間らしさは感じられない。
同僚が言う。「忘れる機能があれば人間らしくなるのかな?」
空き巣
アルバムや記念品だけを狙う空き巣。
「想い出を盗まれる」
母を施設にいれ、実家の中を整理し始める。
母も自分が認知症だと認識しており、本が何冊か出てきた。
その中に挟まっていたメモ 忘れないようにと書いたメモに認知症を実感するイズミ。
思わず流れ出す涙。
しかし、
ベッドの下に置かれた缶ケースの中に大事そうに仕舞ってある手帳を見て嘔吐した。
1994年
母が、イズミを捨てた年
母の大切なもの
失いたくない記憶のトップ 「彼」との出来事がつづられた手帳
母の友人めぐみ
彼女は不倫を告白する。
「一番盗まれて困るのは日記」
「誰にも言えないことを書いているから」
それを聞いた百合子は、イズミを置き去りにして自宅を飛び出したことを思い出す。
さて、
母百合子が最後までこだわっていたのが「半分の花火」
それを見に連れて行ったが、花火が終わった途端「半分の花火が見たい」と騒ぎ出す。
やがて「あなた誰?」
そんな中でも「半分の花火が見たい」という始末。
確執は、思い出を歪化するのだろうか?
イズミの母との思い出は、あの時以来歪化によって多少変更されたのだろう。
母の記憶との相違は、当然母が間違っていると思われるが、実際記憶を変更させていたのはイズミの方だった。
イズミは自宅から「半分の花火」を見る。
母はもうその花火にさえ目が向かなくなっていた。
母の言った「半分の花火」が何だったのかを「思い出した」イズミは、自分が時折回想していた釣りなどの記憶が歪に書き換えられていたことに気づく。
母にとっての最後の記憶は、二人で過ごした幸せの時に見た花火だったのだろう。
手帳の記憶は大切なものに違いはないが、疾うの昔の記憶でしかなかったのだろう。
スーパーで万引きとなったときを最後に、忘れ去られた記憶。
同時に、そしておそらく「忘れていたのは俺の方だった」と思ったに違いない。
最後にホームでのピアノを弾くシーンがある。
母は見事に弾き切った。
ピアノは彼女そのものだったのだろう。
この作品は、母の認知症と確執を抱えたイズミの葛藤を描いている。
イズミという人物はごく一般的でデフォルメされていない。
過去に向き合い、許す。
それは理解できるが、省かれている箇所が多く、視聴者の想像と同情を一緒にしてしまっているように感じてしまう。
記憶がテーマだと思うが、イズミが彼の記憶を歪化する要因が母にあることは理解できるが、歪化がなぜ起きるのかを描いていない。
母百合子がアサバに「寂しい」と言って抱き付くシーンがあるが、当然女としての寂しさ孤独は理解できるが、息子を捨てるほどのものが一体何だったのかが描かれていない。
この2つはこの作品の重要な部分だと思う。
そこだけが惜しかった。

R41
りかさんのコメント
2024年8月18日

おはようございます😃
詳しくコメントしていただきましてありがとうございました😊
なるほど、と思いました。”百”を存在するモノ全て、”花”は大切なモノでしょうか。
記憶を無くす、って改めて怖いことだと思いました。私は単純に花火かな、と思ってました。百花繚乱、最初の母の周りはいいモノばかりだったのに、物質(人的?)消失と思い出•記憶の消失。そうかもしれませんね。辛い話でした。

りか
りかさんのコメント
2024年8月18日

おはようございます😃
ご丁寧にご返信ありがとうございます😊
が、まだまだ頭の中で整理できていません。難しい作品です。

りか
りかさんのコメント
2024年8月17日

こんにちは♪今日観ました。
私の案、母は若い人から認知症だった、しか思えないです。小学生の息子をほっとけるのは。忘れていたし。だけど、ややこしいのが、まともな時が半分以上なので周りは気づかない。正気でしているとしか思えない。イズミは捨てられたショックが大きい。イズミの健気さは良かったし、認知症という怖い病気を扱って問題提起してますが、一人暮らしで認知症で施設あまり参考にならないかと

りか
琥珀糖さんのコメント
2024年7月22日

こんにちは

こちらこそ、いつもありがとうございます。

「記憶」
母に残される「記憶】息子の泉には「忘れられない記憶」
置き去りにされた、母が男を選んだ日の「記憶」
なのに母は勝手に、手の届かない世界へ行ってしまう。
この息子は認知症になる前に、きっと「わだかまりのあるまま」で
その気持ちに「決着」がついていないのでしょうね。
監督が私に与えたデータ。
抽象的な母親の認知の障害・・・
R 41さんの仰る、
「描かれなかった部分を補うことはできない・・・」
曖昧さを認知症のせいにされている感はありますね。
原田美枝子さんの言った「何を描きたいのか分からない」
この言葉は、リアリズムを排してムードに流される作風や
曖昧さを、物足りなく想ったのかな?
その曖昧さが魅力でもあるけれど、
この映画が多くの人に届かない理由かも知れませんね。

琥珀糖