ヘルドッグス : 特集
【極限の偏愛を込めて】超異例のコラボが実現!
私たちに「ヘルドッグス」をプレゼンさせてくれ!
Vol.2:「セクシーで危険! 熱さを身体が記憶する」
岡田准一と坂口健太郎が共演し、原田眞人が監督した“危険すぎる”映画「ヘルドッグス」が、9月16日から公開される。
本作の魅力にハマりにハマり全力で推していくと決めた映画.comでは、異例となる5週連続で特集記事を展開中。本作を偏愛する人に「どこがどう良かったのか」を、週替りで激烈にプレゼンしてもらっている。
第2週となる今回、掟破りのコラボが実現! 映画.comとはライバル関係にあるエンタメ情報サイト「ぴあ」の編集者・中谷祐介氏を特別ゲストに迎え、超異例ともいえる記事がここに誕生した。
“普段は競合”という高く険しい垣根を超えてでも、語りたいことがある――「ヘルドッグス」はそれほどの作品なのである。
【筆者紹介】
中谷祐介…スマートフォンアプリ&WEB「ぴあ」編集部所属。映画ジャンルのインタビュー、記事執筆、情報取材などを担当。Voicyで音声番組「ぴあ 映画のトリセツ」を配信中。好きな食べ物はかまぼこ。
「ぴあ」中谷祐介氏が猛烈に愛する「ヘルドッグス」
アツさが巨大な波となり、観客を結末まで連れていく…
せっかくの機会なので言っておきたい。
“テンションの高さ”を表現するために叫ぶ必要はない、ということだ。
テンションの高い状態を見せたい、表現したい、となると人は叫びがちだ。大きな声も出るし、顔もわかりやすく歪むことだろう。結果として映画では次から次へと「うおー!」と叫ぶことになる。もちろん良い「うおー!」も確実にある。しかし、叫ばない、顔も歪まない、しかしテンションの高い状態は確実に存在する。俳優が椅子から立ち上がって無言で部屋から出ていく。それだけで緊迫感がある。テンションがみなぎっている。メーターが振り切っている。そういう状態を目撃すると映画ファンとしては正直、“なんかすごいものを観た”とうれしい気持ちになるのだ。
●個人的に「かなりハマっている」 セクシーで危険、キャラのぶつかり合いに眼を奪われる
というわけで映画『ヘルドッグス』である。最初に言っておく。俳優のテンションが高い! どこかしらのメーターが振り切っている。そして、それは「なんか知らんが絶叫している」「写真アプリの魔加工のように眼がデカく開かれている」タイプのテンション演技ではない。俳優全員の表情が鋭い、叫ぶどころか喋ってなくてもテンションが高いのが伝わってくる。別の言い方をすると、ここにいる俳優は全員、生命感にあふれていて、じっとしていても躍動感があって、セクシーで危険。夜道では会いたくない。でも、絶対に目が離せない。
あまり大げさなことを言う気はないが、『ヘルドッグス』は個人的にかなりハマっている、今年の映画を振り返るときに必ずや名前のあがる1作だ。ハマる人はとことんハマる、まさに“偏愛”するファンを集める映画と言って良いだろう。
本作は、復讐心をエンジンに動き続ける男が、苛烈なヤクザ組織に潜入する物語である。つまり、必ず「主人公が潜入捜査官だとバレるか/バレないか」について描くことになるし、もちろん本作ではその設定も緊張感を高める要素になっている。しかし、実際に映画を観ると、何よりも登場人物たちの熾烈な姿と、そのぶつかり合いに眼を奪われるのだ。
●岡田准一×坂口健太郎がアツい、ヤバい…友情と愛憎“観たことのない炎”を堪能
岡田准一のテンションの高さは無駄のない動きになって現れる。「うおー!」と叫ぶより速く動き出し、相手を確実に仕留める。相手の動きを受け止めて、瞬時に次の行動・攻撃にうつる。そのすべてが流れるようで、しかも機械的じゃない。熱い。湯気のたつ熱さ。動きの一手一手に感情が読み取れる。しかし、岡田演じる兼高は単に復讐に囚われた男とも言い切れない。かつての自分と、戻れない世界に足を踏み入れた自分の間を行き来する。その“揺れ動き”を観ているだけで観客はラストまでたどり着くはずだ。
そして、坂口健太郎もまた、熱血系ではないテンションの高さで観る者を魅了する。穏やかに微笑み、初対面の人と穏やかに談笑する場面でも、近づくとマズい空気が彼の周囲を覆っている。俺だって来世は坂口健太郎に生まれ変わりたい。しかし、坂口が演じる室岡になるのは勘弁だ。背負った業の深さ。どこまで追いつめられても平熱感を失わないのに、そもそもの平熱が圧倒的に高い。そのヤバさ。
劇中ではそんな岡田と坂口がコンビを組む。ふたりは相棒であり、共に命がけのヤマに挑む一心同体の間柄であり、状況がエスカレートしていく中で友情や信頼を超えた愛憎に近い関係に進展していく。両者のテンション、ふたりの熱が混ざり合って、誰も見たことのない炎が燃え上がっていくのだ。
●“ラスボス”MIYAVI、謎めいて圧倒的に魅力的 熱いのか冷たいのか不明…しかし確実にヤケドする
そして、“内なるテンションの高さ”を最も感じることができるのが、ヤクザ組織のトップ・十朱を演じたMIYAVIだ。精悍な見た目で護衛を引き連れる十朱は、通常の映画で言えば“ラスボス”。主人公が恐れるほどに冷血か、ズル賢いか、剛腕か……しかし、十朱はそのいずれでもない。冷静沈着に行動しているかと思えば突然、モノを破壊し、修羅場にも動じないかと思えば、何かにおびえているようにも見える。謎めいているのに圧倒的に魅力的。そしてそのテンションの高さが熱いのか、凍るほどに冷たいのかわからない。熱かろうが、冷たかろうが、手を出せば確実にヤケドする。
ほかにも、北村一輝、松岡茉優、大竹しのぶなど本作には豪華キャストが出演し、それぞれが違ったタイプのテンションの高さで物語に加わる。それらの炎は混ざり合い、時に血を吹き出させ、時にひとことも発されることのない“沈黙の中の緊迫”を生み出す。
●最後に…単純な「うおー!」系映画ではない。熱さを身体に刻む“異常作”
『ヘルドッグス』は熱い映画だと多くの人が言うだろう。しかし、それは単純な「うおー!」系映画ではない。次々に出現するタイプの違う“熱さ”が混ざり合い、巨大な波を生み出して観客をラストまで連れていく。観終わった後にその感情を言葉でうまく説明できないかもしれない。でも、その熱さをあなたの身体は確実に記憶しているはずだ。(文/ぴあ・中谷祐介)