「止められない世界の崩壊が怖い」ゴーストブック おばけずかん Uさんさんの映画レビュー(感想・評価)
止められない世界の崩壊が怖い
原作の斉藤洋さんの大ヒットシリーズは読んでいません。「お化け図鑑」でなく、全部平がな表記であるのは良いですね。子ども向けだから当然かも知れませんが、子どもの世界を支配する言霊のイメージ。
古書店に紛れ込んだ子どもたちは外に放り出されるが、同じメンバーが細長い古書店の中を走り抜けて行く。これは幽体離脱して、戻って来られなくなるやつ。
◉過去を清算する?
子どもたちが飛び込んだ異世界では、世界の仕組みが根底から崩壊して、家の骨組みや看板・のぼりの文字が歪んで、再構築へ向かっているところだった。最恐の妖怪ジズリの仕業だった訳ですが、そうやって現在は過去になって消えて、次の現在が出現する時の流れを作り出している……と言うことか。スティーブン・キングの過去を喰らう妖怪・ランゴリアーズをちらっと思い浮かべたりしたのですが、厳然たる時制の移行。
私としてはこの崩れゆく世界の眺めに、ファンタジーの醍醐味を感じました。校庭から眺める校舎は回転・変形を続けて、とてもシュール。波打って二つに分かれた道路や、天からぶら下がる森とか、もっとやってくれても良かった。
◉優しい妖怪たち
仲良し3人組が直ちに異世界に馴染んでしまったり、妖怪たちがハナから人間臭かったり、緊迫感はちょっと希薄でした。ジズリを別にすれば、何かとんでもない業を仕掛けてきそうな怖さがあったのは雲梯のみ。際限なく空に上って行ったのは、結構恐ろしかった。しかし山彦も百目も、最初はなあなあ感ナシの危険な怪物として暴れてくれないと、物足りない。夏休みの冒険譚だからハラハラとホッとを、思いっ切り繰り返して欲しかった。
◉全てが忘れ去られる
町外れの祠の裏側で繰り広げられた冒険は、湊の命が救われるとともに消え失せる。忘却でケリをつけるのはファンタジーの一つの定番ながら、「俺ら3人だけの秘密」にさえならない。この儚さも良かったです。まぁ、共に戦った友情は何処かに残るのだと言う含みを持たせて、少年たちは季節を越えていく訳です。
子どもたちにすっかり忘れられてしまう、新教師新垣結衣さんは、今回のような、子どもに揶揄されたりしながらも全力で頑張り、やっぱり外してしまう役向きが似合っていると思いました。私は前からそんな印象を受けていたのですが、情けなさがかなり可愛い。