「ラブ「コメディ」ではなくラブ「ストーリー」だった」チェリまほ THE MOVIE 30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい s sさんの映画レビュー(感想・評価)
ラブ「コメディ」ではなくラブ「ストーリー」だった
しっとりとした映画でした。
「ずっと一緒にいられたらいい」というふわっとした夢見心地の感覚ではなく、「ずっと一緒に生きていきたい」という、明確な人生の目標ができた安達が、それを黒沢に伝えて、ふたりでそれを叶えるために、一歩ずつ進んでいこうとする様子には胸を打たれます。
ドラマ放送時の、美しい光の演出や、声の震えや触れる音が聞こえる繊細な音や声の演出も健在です。
モノローグも最小限で、赤楚さん町田さんの、揺れる心情が睫毛の先まで宿っているような演技を、劇場のスクリーンで観ることができて嬉しかったです。
ラストシーン、ドラマでは毎回黒沢がひとけの無い道で手を繋いでいたのが、昼間の人通りのある道で安達からそっと指を絡めて繋ぎます。それを見て、瞬間的な燃える恋を越えて、ふたりで温め続けられるような愛に辿り着いているんだなと感じました。
ドラマで二人が手を繋ぐときは二人とも笑顔でしたが、映画の最後ふたりが歩いているときの表情は少し違います。その道程に、その後の未来を見ているようでした。
あの公園にはいろんな人が歩いていて、同性同士の人だっている。それが恋人なのか友人なのかは分からないし、男女でいたって恋人同士かどうかは分からない。もちろん一人で歩いている人もいる。その中で、安達と黒沢だけがもしかしたら辛い目に遭う未来があるのかもしれないと考えると切なくなります。
BLのファンタジーと、ふたりが生きていく現実の境目を観た気がします。
付き合いたての、一番幸せなキラキラした時間を、もっと見たかったなという思いも正直あります。
キスシーンも明確には見せてくれないのかーと正直残念には思いました。でも、長崎の夜、黒沢が固く結んだ指を安達から解いて、たどたどしくも優しく繋いでいく演出、想いがつながりながら互いに力が入っていく様子には、すごくどきどきさせられました。
後半にいくにつれて、肉体的な接触で関係性の安定をはかろうとする関係性はとうに越えていっているのが分かって、より手を繋ぐ行為の変化を尊く感じました。
ふたりのどんな姿が見たかったのか、期待していたものは千差万別なので、それによって抱く感想が変わってくると思います。原作もドラマもある中で、より期待の形も様々だと思います。
映画という形で、またふたりが楽しそうにいる姿を見せてくれたことが、とっても嬉しかったです。