「哀しげなピーター・ディンクレイジが最高」シラノ つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
哀しげなピーター・ディンクレイジが最高
シラノ・ド・ベルジュラックのことは知らなかったけれど、ピーター・ディンクレイジ主演のロマンスミュージカルで監督はジョー・ライトならばぜひ観たいと思っていた。
ちょうど先月くらいにたまたま「シラノ・ド・ベルジュラックに会いたい」を観た。この戯曲を書き上げたエドモン・ロスタンを主人公としたシラノ・ド・ベルジュラックができるまでのコメディだ。これがメチャクチャ面白くて、本作への期待は一層高まった。
さて本作であるが、光の使い方が上手いジョー・ライトの手腕は健在で、哀愁漂うピーター・ディンクレイジの演技と相まってなかなか見応えのある良作だったと思う。
歌うシーンは少なめだったし、あまり魅力的だったともいえないので、ミュージカルとしては少々物足りないものがあるが、逆に言えばあまりミュージカルらしくないのはミュージカル慣れしていない人にも見やすいと言えるかもしれない。
思ったほど歌わないのは個人的に残念なところだし、そんなにお上手でもなかったが、それを補って余りある力強さがあったのは確かだ。
その力強さとはやはり物語の持つ普遍的で純粋な愛と人間らしさだろう。
相手を想えば想うほど自分では釣り合いがとれないと感じる心。身体的劣等感からくる自信のなさ(オリジナルだと鼻が長く不細工とされている)。良く言えば高慢になれない謙虚さ。あと一歩が踏み出せない勇気のなさ。
いつの時代も恋の悩みは変わらないのだと改めて知る。
19世紀後半の恋愛ものは、その一途さにおいて突出するものがある。死ぬまで一人の人を想い続けるような作品だ。
その中でも本作は、気持ちを伝えない武士道的な(この場合は騎士道かな)もどかしさがあり、日本の時代劇の恋愛ものに通ずる。これが刺さりやすいのか非常に魅力のある物語に感じるのだ。
これを表現する哀しげなピーター・ディンクレイジがハマってるんだよね。抑えられない愛への衝動と叶わぬ(と思っている)ことへの悲しみの狭間で揺れてる感じがとてもいい。
物語がどうなるのか知っているので普通に観ていたが、何も知らずに観ていたら踏み出せないシラノの姿にモゾモゾしてしまうに違いない。
頑張れシラノ!勇気を出せ!と応援しただろう。