劇場公開日 2022年2月25日

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「実在する人物ベースなので注意。前提知識がないと理解がはまります(補足入れてます)。」シラノ yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5実在する人物ベースなので注意。前提知識がないと理解がはまります(補足入れてます)。

2022年2月26日
PCから投稿

今年55本目(合計328本目/今月(2022年2月度)27本目)。

「ガガーリン」が(まぁ、想定はできますが)天文知識を要求するなぁ…と思いつつこちら。今週は学術枠祭りなんでしょうか…。こちらは本当に文系のマニアックな知識がないとはまります。

 まず、この映画「それ自体」は、ミュージカルであるほうの「シラノ・ド・ベルジュラック」をベースにします。しかし、このミュージカル作品の「シラノ・ド・ベルジュラック」もまた、史実として存在した同名のシラノ(読解が混乱しますので、人物としては「シラノ」扱いで統一します)をベースにして、作品として仕上げたものです。

 最後にも表示されますが、元のミュージカルにもいくつかの版があるようで、ある版をベースにしたものを映画化しました、とは出ます。とはいえ、ミュージカル版といっても、章立てをどうするかなど細かい点で差異は出ても、あることないこと入れらませんので、あまりそこは関係ないかな…というところです。

 このため、映画内で描かれるのは「シラノ・ド・ベルジュラック」であるため、最初に「木星や冥王星のような惑星のような輝きの美しさ…」という字幕が出るところ、冥王星の発見は1930年です。一方でシラノは(1619~55)と明らかに違います。ですので、ここでいう「冥王星」というのは、「太陽系(当時は、土星まで知られていた)でまだ見つかっていない天体」程度の意味合いなのだろうという点はわかります。

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 ※ もし時間軸がそうであるなら、アメリカやドイツ、イタリアなどの描写が一切でないのは明らかに不自然であることからの反対解釈。
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 問題はここからで、シラノが1619年生まれ(17世紀のフランスの文学者、55年没)であることを知らないと、映画内では国名はおろか年号も何も出ず、手紙を代筆するだの告白がどうだのという部分はまだわかっても、「突然戦争にいってしまう」のが、何の戦争かわからない点、そもそも「シラノって言うけど、実在した人物なの?」「何をした人なのだろう?」という点です。ミュージカルの「シラノ・ド・ベルジュラック」を知っているか、人物としての「シラノ」を知っているかで断定・類推がききますが、ここはかなりマニアックです。

  ※ しかも、このことが、リアル今日(2022/2/26)も問題になっている「国際条約の順守」という問題と絡んでくるところが、何となく胸がちくっとします(後述)。

 要は「前提となるミュージカル版を知っている」か人物としての「シラノ」を知っているかのどちらかの前提がないと本当にストーリーがわからない状況となってしまう点だろうと思います。その上で、人物として史実として存在した「シラノ」のことを知らないと、セリフの一部がわかりにくいところもあります。これらはまとめて後ろのほうに回します。
正直なところ、高校世界史ではギリギリいけるか…というくらいです。

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 (減点0.5)
 ・ 結局、「ミュージカル版を知っている」か、偉人伝などで「シラノ」を知っているか、を知らないと、そもそも「どの国のいつの時代の話をしているのかさえ不明」な展開になってしまうので(冥王星の話なども混乱を招いてしまう)、そこが極端にきついです。ほとんど、去年(2021)の「最後の決闘裁判」のような様相となっていて、歴史ものという観点では極端に難易度が高いです。

 最低限必要な知識、あると良いかなと思える知識は下のほうに載せました。
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 ▼ この映画で求められている前提知識

 ミュージカル内で参照されている、人物としての「シラノ」とは?

  → 17世紀のフランスの文学者(1619~55)です。文学者でもあり哲学者でもありました。デカルトやモリエールとの文通も残っているという経歴もあります。一方で映画内では出ませんが、「月世界旅行記」(1656年(57年説あり)は、没した翌年(2年後説あり)に生涯の友人だった同じ文学者がまとめて出版)は、いわゆる「天文SF小説のはしり」とも言われるものです(実は、理系的な実績を残している人なのです)。

 このため、作内でも描かれているように手紙を代筆することは、息を吸うのと同じ程度に当然にできていたのです。

 そもそも、時代背景って何?

  → 本当に国も時代も出てこないのでわかりにくいですが、「三十年戦争」です(1618~48)。三十年戦争は「最大最後の宗教戦争」とも呼ばれます。最初こそ宗派(プロテスタント vs カトリック)で争っていたのですが、途中から土地争いの様相も出て、最後(4期と呼ばれる、スペイン・フランス戦争(1635~48(終戦まで))には本当に土地争いにしかならなくなりました。映画内で描かれているのはこの4期の中の1640年の「アラスの戦い」です(高校世界史で扱うことはありません)。相手はスペインで、宗教戦争で始まった戦争もただの土地取り争いに成り下がていたので、思想も何もなく相手を倒せ倒せになってしまったのがこの時代で、シラノはこの戦争に従事しています。

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  ※ 「アラスの戦い」で検索しても、もう1つの有名なほう(第二次世界大戦、1940年)のほうが多いので注意。
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 そして、ヨーロッパの大半が参加したこの戦争の講和条約が「ウェストファリア(ウェストファーレン)条約」ですが、これこそが、「国際条約のさきがけとなる条約」であり、まだネットも何もなかった17世紀において「国際会議」という概念が(まぁ、ヨーロッパだけですが)できた、という、今日(こんにち)にいたるまで、重要な意味を持ったことがらです。

 …ということを知っていて、はじめて「どうしてシラノは代筆ができたのだろう?」「戦争に行く行くって言っているけど、何のどこの戦争なのだろう?」という点が理解できるようになるわけですね。

 知っておくとよいかなと思いましたので、参考までに。

yukispica
佐和子さんのコメント
2022年2月28日

鑑賞帰りですが非常に参考になりました!私は高校の演劇部でシラノドベルジュラックを現代の日本にアレンジした戯曲をやったことがあるので大筋は知ってたのですが、シラノ自身も実在なのですね!
三人を中心に展開するので史劇にありがちな人間関係混乱することはなかったけど、時代背景の説明がないのは私も気になりましたし、なんの戦争?ても思いました(笑)

佐和子